押しかけ働きかた改革
『押しかけ働きかた改革』

登場人物:
・白木桜子(20、女)─小説家。ヒット作に恵まれず、成功を焦っている。
・遠山椿(30、女)─自称キャバ嬢。白木の新作の主人公と同姓同名で、経歴も同じ。
・担当(42)─白木の担当。声のみの出演。


○白木の自宅・夜

   白木が1人暮らしをしているアパートの1室。舞台上手側に玄関がある。
   あちこちに書類や飲み物の缶が散らばっている。
   舞台中央にパソコンやスマホの置かれたローテーブルと座椅子がある。
   舞台下手側にベッド、上手側にキッチンがある。
   白木、座椅子に座って原稿を書いている。
   明転。

白木    『安っぽいシャンデリアの下で1歩前に踏み出し、椿は凄んだ。』『ああ!?うち
の店はお触り厳禁だっつってんだろ、つまみ出すぞコラア!』──いやいやいや曲がりなりにもこいつは接客業だ、落ち着けわたし…『あたしの店なんで、ご不満でしたらお引き取り願います』──いやいやいやさすがにこれはパンチが足りない…うーん… 

   電話の着信音。
   白木、電話に出る。

担当(声) あ、桜子先生?
白木    もしもし、桜子ですが。
担当(声) もう、『もしもし』じゃありませんよ! 
白木    他にどんな通話の始めかたがあるんでしょうか。 
担当(声) 挨拶はいいって意味ですよ!あのねえ、原稿!今度こそ大丈夫なんですよね? 
白木    お任せください。 
担当(声) それ前回も言ってましたけど。
白木    そうでしたっけ。
担当(声) いいですか、7回も締め切り延長なんて前代未聞ですよ、前代未聞! 
白木    大丈夫です、今回は必ず間に合わせますので。 
担当(声) 参考までにお聞きしますけど、先生今進捗いかがですか? 
白木    そうですね…全体の25%といったところでしょうか。 
担当(声) ぜんっぜん進んでないじゃないですか! 
白木    ご安心ください、これから奇跡を起こしてみせます。 
担当(声) 知りませんよ?今回落としたらもうほんっとにどうにもなりませんからね!? 
白木    承知しております。では作業に戻りますので、失礼いたします。 
担当(声) あ、ちょっと── 

   白木、電話を切る。

白木    …ダメだ…書けない…無理だあ… 

   インターホンの音。

白木    はあい。誰だろ、こんな時間に… 

   白木、玄関に行って鍵を開ける。
   食品の入ったビニール袋を持った遠山、上手側から入場。

遠山    おつかれー、桜子ちゃん。 
白木    ああ、えー…はい。おつかれさま…です。 
遠山    えっ、てかきったな!
白木    その、片づける暇がなくて。 
遠山    だからってさすがにこれはヤバいでしょ!え、マジでここ人間の家?
白木    す、すみません。 
遠山    ったく、あんたって子は… 

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