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磁力と幻肢痛　(25分)

　　　男は左手に黒い手袋をしている。

父　…。
娘　…。
男　…。

　　　間。

男　今日は、お時間を頂きまして…。
父　…。
娘　私達から、お父さんに。ご報告が３つほど。　
父　…。
男　３つ？
娘　３つ。
男　…まだ、何もお伝えしてないの？　
娘　伝え方が、上手く思い浮かばなくて。
男　何も…。何もか…。

　　　部屋の電気が消えそうになって、また点く。

父　…。
娘　…。
男　…。

　　　部屋の電気が消えそうになって、また点く。

父　…。
娘　…。
男　…。
娘　交換しなよ、電気。
父　変えても同じだ。
娘　同じって事ないでしょ。今までは普通の蛍光灯？　
父　適当に買ってるから分からん。普通のじゃないか。
娘　ＬＥＤにしなよ。寿命長いし。
男　その分、値段が。
娘　ネガキャンしないでよ。お父さん腰重いんだから。新しいものになかなか手を出さな
　　いの。
父　別に困ってない。
娘　スマホにしないで携帯のままだし、仕事してなきゃ携帯さえ持たなかっただろうし。
父　お前らみたいに電車でも何処でもずっとピコピコやらないんだよ。
娘　別にみんなゲームしてる訳じゃないよ？　とにかく、電気は新しくしなよ。
父　暗くたって死にはしない。
娘　そういうの。そういうのが危ないんだって。孤立死する傾向だってよ？　電気が切れ
　　たのとか、障子が破れたのとか。自分が我慢すればって、生活水準が落ちていくの。
父　俺は大丈夫だ。
娘　過信してるほうが余計に怖いんだよ。
父　なんだ、説教し来たのか？
娘　違うよ、報告だってば。
父　すればいいだろ。
娘　そう。そうね。まず、えー、こちらの方と、ね。お付き合いを。
男　させて頂いております。
父　好きにしたらいい。
娘　あ、そんな感じなんだ？
父　何だ、そんなって。
娘　どんな反応するのか、読めてなかったから。
父　いずれその先もあるんだ。相手がいないほうが心配になる。
娘　…だそうです。
男　うん。
娘　じゃあ、認めてもらっても？
父　俺が反対してどうこうって話でもないだろ。

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