事実じゃない
(未上演短編)
事実じゃない

    舞台上に2つの椅子。
    一つの椅子に男が座る。

男    何回言わせるの。え、だからさやってないよ。いやいやいや、正確には、正しく  は違うんでしょうけど、ね。ない、ないのそういう事はさ。無い訳で。わかるで  しょ。あなたもさ。そういう事。

    もう一つの椅子に女が座る。

女    何度でも言います。私は被害者です。辟易しているんです。私は。こうして何度  も何度も、貴方にはわからないでしょうけど、どれだけ私が。
男    冤罪だ。何を考えているかさっぱりわかりませんよ。被害者は私ですよ。そりゃ  ね、やったのは確かですよ。でもね。その前段が違う訳ですよ。
女    そうです。だから彼がね、加害者なんです。気が付いたらそうなっていたんです。  何度言わせるんですか。同じ事を。いいかげん、私だって。
男    何度だって言いますけど、やったのは認めますよ。ええ。それはその、まぁ、い  いのがれできませんから。はい。認めます。
女    違います。どうしてそんな事を言うんですか。何度も何度も、繰り返し、うんざ  り。もう。いい加減にしてください。私は。認めません。
男    しつこい。ああ、もう本当に。こっちはね、認めてるんですよ。そしてその上で  言ってるわけですよ。わかります。
女    わかりません!理解できません!これ以上必要ですか、この堂々巡りが。
男    その通り。ようやくですか。
女    長かった。
男    ここまで。本当に。

    男女、椅子より立ち上がり、一瞬お互いが視野に入るが、その後、相手を無視す  るかのように消える。
    男、現れて椅子に座る。

男    そうです。はい。そうですよ。それは認めます。

    女現れ、椅子に座る。

女    いいえ認めません。はい、私は何度でも言いますが、認めません。だって納得で  きないんですよ。だからそこ。
男    はぁ、だからそれは嘘なんですよ。
女    嘘じゃありません!それこそ。
男    まぁ、覚えているかも。
女    覚えてますよ。だからこそ。
男    ウケルね。こりゃ失敬。
女    ふざけないでくだい。私は。
男    どっちが。
女    あいつが。
男    あの女が。
女    あの男こそ。

    男立ち上がり、女も立ち上がる。
    しばしのちお互いの顔を見合う男女。

男    恥ずかしくないのか。
女    そちらこそ。人として。
男    君がね。
女    貴方こそ。
男    まぁ、どちらが正しいかは。
女    これから明らかになるでしょうね。その時に。
男、女   後悔すればいい!

    男、女退場する。
    同時に声が聞こえる。

声    人間の記憶とはあいまいで不確かな物である。どちらが正しく、どちらが間違っ  ているか等どうして第三者が見極められよう。しかし勝者と敗者は必ず生まれる。  それこそ悲劇であり、喜劇である。


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