西洋骨董事故物件
―眠らせる館―
【 一 】
十一月十三日。午前十時。
キサラギの不動産屋。
ツバメとキサラギが席に着いて話している。手元には物件リストのファイルなどがある。
キサラギ「だーかーらー。何度も言うように、この条件でね、この家賃の所なんて無いんですって」
ツバメ「えー」
キサラギ「えーっと……(ツバメが名前や連絡先を記入した書類を眺めながら)ミナミツバメさん。
あんたね、正直言って常識外れだよ」
ツバメ「常識?」
キサラギ「うん」
ツバメ「外れ?」
キサラギ「そうです」
ツバメ「えー。やーだあー、やーだあー。
だってだってぇー、広くて街から離れた静かな所でのんびり暮らしたいって言ってるだけなんだぜ?
んな難しいことじゃねーじゃん。駅から多少遠くたっていいし、スーパーとか便利なとこが近くに無くていいんだよ。
その代わり、家賃をこれくらいにして欲しいんですよお」
キサラギ「いくらなんでも破格過ぎます。なんですか二階建ての戸建てで家賃三万って。
この辺りだと、(物件リストを見せながら)ほら、これみたいに、ワンルームでも最低五万はしますよ。
って、さっきも言いましたよね?」
ツバメ「だから、こんな駅チカじゃなくていいんだって。そういうのあんでしょ、戸建て丸ごと貸してくれるやつ。
オンボロでもいいからさ、世俗から離れて暮らしたいのよ」
キサラギ「また貴族みたいなこと言って。
ありますけど、(物件リストのページをめくる)……例えばここのように、
築四十年、駅からバス三十分でも、家賃と管理費で五万なんです」
ツバメ「でもこれ純粋に家賃だけなら四万じゃん。いいねえ惜しいねえ。キサラギさん、もう一声、もう一声!」
キサラギ「なんなのこの人。無いって言ってんのに全然諦めてくれない」
ツバメ「はー? 本気で家探してるから朝イチから来たのにこの塩対応。
いいんすか。街の不動産屋がこんな塩っ塩っでいいんですかー?」
キサラギ「塩で結構。無いもんは無いんです」
ツバメ「そこをなんとかあ。お願いしますよ、キサラギさぁん。
なんかないのー? あるでしょなんか。(物件リストのページを最後までめくっていく)」
キサラギ「あのねえツバメ君。親元から離れて自立したいという気持ちはとても偉いと思う。そこは尊重したい。
でもね、もうちょっと勉強しようか。ね、教えてあげるから」
ツバメ「あー!(叫びながら立ち上がる)
あった! ここ! 家賃三万、希望通り! しかも管理費無し! 最高!
なんだよあるじゃん渋りやがって。全部出してって言ったのに」
キサラギ「ああ、そこね。でも、そこはちょっと特殊だから。
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