さよならの口づけをして
   

    筑田周一作
    さよならの口づけをして

                               女子聖学院高校演劇部
    配役
    池袋 順       劇団「山手線中央線」大学一年生。 
    飯田橋美猫  劇団山手線中央線」大学一年生。
    千駄ヶ谷遊子 女優。OG。
    新橋 瞳       劇団「山手線中央線」大学一年生。
    秋葉原 続  劇団「山手線中央線」大学一年生。
    御茶ノ水 一 劇団「山手線中央線」大学二年生。
    福島   詩        大学一年生。
   
   





 
    一 夜長姫と耳男ダイジェスト
    キャスト
    夜長姫 瞳
    耳男  順      
    エナコ 続   
    長者  美猫 
長者   ヒメは十三歳。このヒメを守る尊いホトケの御姿を刻んでもらいたい。
耳男   夜長の長者に会った時、かたわらに夜長姫がいた。
長者   お前が耳男か。なるほど、大きな耳だ。兎の耳のようだ。しかし、顔は、馬だな。
夜長姫   本当に馬にそッくりだわ。
耳男   カチーン!オレはヒメの気に入らない仏像を造る覚悟を決めた。
長者   姫が気に入った仏の作者には、褒美に機織り娘のエナコをやろう。
耳男   だが、目があった瞬間、俺とエナコは憎み合った。
    ハタを織るとは珍しい動物だ。
エナコ   あら?馬が大工なの?
耳男   オレの国では馬は大工はするが、ハタは織らねえな。せいぜいハタを織ってもらおう。
    エナコすっくと立ち上がる。耳男の後ろに回ると、耳を切り取る。
耳男   うわー!(耳を押さえてうずくまる)
エナコ   これが馬の耳の一つですよ。
    耳男、耳を押さえて呻く。取り押さえられるエナコ。
長者   当家の女奴隷が耳男の片耳をそぎ落した。よってエナコを死罪に処する。耳男、斧で首をうて。
    (耳男スックと立つ。斧をとってズカズカと進み、エナコを睨みつける。
    エナコの後ろへまわると、斧を当てて縄をブツブツ切る。そして、元の座へさっさと戻る。)
耳男   虫ケラに耳をかまれただけだと思えば腹も立たねえや。
夜長姫   エナコよ。虫ケラにかまれても腹が立たないそうですから、存分にかんであげるといいわ。
    夜長姫、懐剣を差し出す。受け取るエナコ。エナコ、耳男の目の前で懐剣のサヤを払う
耳男   ウッ!(歯を食いしばる)エナコはオレの耳を切り落とすと、その刀で自殺した。
    胸を突いて倒れるエナコ。
    それから三年、オレはヘビの生き血をすすり、小屋の中にヘビを吊るし、バケモノを刻んだ。ところが姫は、俺が呪いを込めたバケモノ像を気に入ってしまった。オレはその姫の無邪気な笑顔に圧倒された。このままでは、オレも殺される。
    今生のお願いでございます。お姫サマのお顔お姿をきざませて下さいませ。それを刻み残せば、あとはいつ死のうとも悔いはございません。
長者   ヒメよ異存はないか。
夜長姫   ええ!
耳男   そのころ、この山奥にまで疫病がはやった。
    ヒメは時々邸の高楼にのぼって村を眺めたが、死者を見ると、ヒメの一日はは充ち足りた様子であった。
夜長姫   耳男よ。今日は私が何を見たと思う?お前のバケモノを拝みにきて、ホコラの前でキリキリ舞いをして、ホコラにとりすがって死んだお婆さんを見たのよ。畑の人も、野の人も、山の人も、森の人も、家の中の人も、みんな死んで欲しいわ。
耳男   ヒメが村の人間をみな殺しにしてしまう。
夜長姫   お日さまが、うらやましい。日本中の野でも里でも町でも、こんな風に死ぬ人をみんな見ていらッしゃるのね。
耳男   このヒメを殺さなければ、チャチな人間世界はもたないのだ。
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