本能寺の変 〜夢と消ゆる夢〜
信長 わしは……間違っておったのだろうか。幾多もの敵をほろぼした。数えきれぬほどの人間を殺した。仏にもそむき、魔王を名乗った。全ては戦国の世を生き抜くため。全ては我が夢を叶えるため。いつもわしは一人になると、自らの行動を悔やみ、死者の影におびえる。これが悪魔の化身かと、魔王信長かと、笑うなら笑え。さげすむならさげすめ。わしとて、人の子よ……。
蘭丸 御館様、一大事にございます!
信長 どうした?
蘭丸 何者かがこの本能寺に忍び込みました。
信長 ほう、わしをねらってか。
蘭丸 ただ今足軽どもに探させております。なにとぞ……。
信長 おもしろい。
蘭丸 は?
信長 おもしろいと申したのよ! よいか、その者は殺すな。生け捕りにせよ。
蘭丸 はぁ……わかりました。
足軽 報告いたします。中庭で怪しい人影を見たとのことです。
蘭丸 なにっ、わかった今行く。それでは。
信長 (蘭丸が去ったあと、部屋にあった刀を足軽ののどにつき立て)待て。
足軽 なっ、なんでございましょう。
信長 貴様がその曲者であろう。
足軽 そんな、滅相も……。
信長 たわけが! わしの目をごまかせると思うたか。
足軽 ちっ。
足軽は信長の刀をはじくと後ろへ大きくさがる。
足軽 なぜ、わかった。
信長 フン、少しばかり頭を使えばわかることよ。本当に曲者が中庭におるのなら、今ごろ手柄を取ろうとした足軽どもの声で大騒ぎになっておるところじゃ。
足軽 そうか。
信長 貴様の狙いはなんだ、わしの命か?
足軽 無論。
信長 ならば、言葉はいるまい。
殺陣。打ち合って引き分け。
信長 なかなか、やるのう。
足軽 ……。
信長 貴様、誰の手のものじゃ。毛利か、長宗我部か?
足軽 ……誰でもない。
信長 ほほう、ならばなにが理由じゃ。
足軽 浅井長政という男を覚えているか。
信長 ああ、あの阿呆か。……まさか。
足軽 長政は、わが父よ。
信長 ふははははは! そうか、長政ののう。
足軽 父の無念、ここで晴らしてくれる。
殺陣。信長勝利。
信長 愚か者が、父の元へ行くがよい!
足軽 ぐっ、だ、だが貴様も……道連れよ。
信長 なにっ!?
足軽 ち……父上、今お側に……。(切腹)
信長 ……。
蘭丸 御館様。一大事にござります!
信長 なんじゃ、騒々しい。
蘭丸 (足軽を見て)これは……。
信長 曲者はわしが始末した。もう大事もあるまい。
蘭丸 それが……。
叫び声、怒号、悲鳴。様々な声が聞こえてくる。
蘭丸 謀反にございます。
信長 謀反じゃと! して、敵は。
蘭丸 旗印に、桔梗の紋。
信長 光秀か。……なるほど、道連れとは。
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