同人誌



「同人誌」
    作:修練
   
【登場人物】
中田 葉月(なかた はづき)
大川 満 (おおかわ みつる)

アンサンブル 1〜3人 モブ、母、客(音響で代用可)




    中央に葉月が立っている。
    蝉の声が聞こえる。手には同人誌を持っている。

葉月   その知らせを受けたのは、夏でした。
葉月   早起きのセミが鳴きはじめて、梅雨のジメジメもすっかり忘れた頃、スマホの画面に、懐かしい名前が表示されました。
葉月   その時期はちょうど、仕事が忙しくなって。家に帰らずに会社に泊まる、なんて日もあったくらいです。心も体も疲れ切っていた中で見たその知らせ。
…結局、行かなかったのは、自分を守るためでしょうか。余裕がないから、休みが取れなかったから、大事な時期だったから…。
葉月   全部、全部、ただの言い訳だけど。
葉月   私は、逃げるように駅へと走りました。

    雰囲気が変わる。

葉月   私と満が出会ったのは、中学生のときでした。そのころの私は、学校生活を真面目にこなし、先生からの信頼も絶大な、いわゆる、優等生でした。そんで、満はというと…

    満が出てくる

満    よぉ!葉月!!
葉月   えぇ。お察しの通り。バカなんですよ、私と違って。成績も悪いし、授業中すぐ寝るし、提出物もいい加減で…。でも、なんでか、妙に気が合ったんですよね。
葉月   だから、学校ではよく一緒にいました。私に友達が少ないのも…多分こいつのせいです。
葉月       そんな風に過ごしていた、中学3年の夏でした。満が、私にあんな提案をしてきたのは。

    場面転換。教室。

満    同人誌を作ろうよ!
葉月   …は?
満    だから!同人誌作ろ!
葉月   …え?
満    だーかーら!同人誌つく…
葉月   聞こえてるよ!はぁ…いきなり何言いだすの…
満    いきなりじゃないよ。私、ずっと考えてたの!
葉月   ずっとって…じゃあなんで今言い出すの。よりにもよって3年生になって、この夏から受験だー!って時に。
満    今まで忘れてたんだよ。
葉月   ずっと考えてないじゃん。
満    ずっと考えてたよ!
葉月   今まで忘れてたんだからずっと考えてないじゃんか。
満    じゃあ!葉月はいつも「はー私の心臓動いてる!息してる!」って思いながら生きてんの?
葉月       そんなことないけど…何その例え。
満    じゃー私もそうじゃん!
葉月   …ん?何が???
満    へ?
葉月   何が「私もそうじゃん!」なのか全くわかんなかったんだけど。
満    だから、葉月はずっと心臓のこと考えてないんでしょ?
葉月   うん
満    つまりそれって、私が同人誌作りたいってずっと考えてたってことと同じだよね?
葉月   …?
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