ファースト・ラスト
「ファースト・ラスト」
作・修練
明転すると、そこは文芸部の部室。中央に悟と広輝が背中合わせで立っている
悟 小説家とは、孤独な生き物だ。執筆時あるいは構想段階、もっと言えばアイデアが出た瞬間も。
広輝 …作品とは、子供のようなものだ。苦労して、汗水たらして育て上げる。そこに芽生える愛情は、母親のそれと何ら変わりない。
悟 …俺たちは、文芸部。いわば、物書きである。小説はもちろん、エッセイ、コラム、脚本、果ては論文にいたるまで、何でも書く。それは、書くのが好きだからだ。中学の頃は、一人で、こっそりと小説を書いていた。だが、高校に入学して文芸部に入り、俺は仲間に出会った。同い年でしっかり者の広輝。次の年には、気弱だけど繊細な文章を書く、後輩の美穂が入ってきた。たった3人の部活。でも、俺はこの場所が大好きだ。…いや、大好きだった。
広輝 冬の寒さも忘れかけ、衣替えの季節がやってくる。それは、出会いと別れの季節。彼らにとっては、後者 の意味合いのほうが大きいだろう。卒業。それは新たな生活のスタートであると同時に、今までの日常との惜別でもあるのだ。まだ成人にも満たない彼らの心では、未来への期待よりも、それの方が勝ってしまう。
悟 3年間、たくさんの作品を生み出してきた。いい作品もあれば…自分でも恥ずかしいほどの駄作もある。出来の悪い息子を持つ親の恥ずかしさって、こういうことなのかな。
広輝 いいや、一つ違うだろう。
悟 …それでも俺は、この子が…この子たちが、大好きだ。
間
悟 …どうよ!?
雰囲気が普通になる。
広輝 うん、いいんじゃない?
悟 よっしゃ!
広輝 ただ…
悟 ん?
広輝 出来の悪い子供を持つ親でも、たぶん子供のことは好きだと思うぞ。
悟 あーやっぱり?
広輝 お前また勢いで書いたな?
悟 アハハ…。「一つ違うだろう」っていう言葉を使いたくてさぁ。
広輝 うーん…親のたとえを出さなくても、「駄作もある。ゴミ同然だろう。だが一つ違う。」ってのは?
悟 いくらそのあとでフォローするとはいえ、自分の作品をゴミとは言いたくないなぁ。
広輝 でも、ゴミなんだろ?
悟 …まぁ。
広輝 ボツ作なんて、思い出にはなっても財産にはならないからなぁ。
悟 というかこの世に残したくないから丸めてポイだな。
広輝 お前1年の秋なんてひどかったもんなぁ。
悟 あの時の俺は俺じゃなかったんだよ
広輝 展開運びが急にへたくそになったよなぁ。
悟 ほんとだよ。スランプってああいうことだろうな。
広輝 …せっかくの自伝小説なんだし、いうならぼろくそ言ってやろうぜ。
悟 でも冒頭からゴミっていうのもなぁ。
広輝 逆にインパクトあっていいんじゃないか
悟 字面が汚くないか?カタカナってのも見てて目立つし。
広輝 じゃあひらがなにするか?
悟 それで解決するとも思えねぇけどなぁ。
広輝 気にしすぎだろ。…どうせ、誰かに見せるわけでもなし。
悟 まぁ…な。読んでも俺ら以外は面白くないだろうしな。
広輝 そこは俺らしだいだと思うけど。
悟 あと見せるとこがもうないよ。だってほら。(胸の花を見せる)
広輝 …そうだな
悟 卒業かぁ
広輝 卒業だな
悟 いやぁー長いようで長かったぁ!
広輝 長いのかよ
悟 うん!長かったぁ!
広輝 そりゃよかった。
悟 よかったのか?
広輝 長い方が良いじゃねーか。
悟 そうか?長く感じるってことは楽しくなかったってことじゃないのか?
広輝 楽しくなかったのか?
悟 …授業は楽しくなかった。
広輝 部活は?
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