包丁彼女
「包丁彼女」
サヤカ 高校二年生 女子
タカシ 高校二年生 男子
ミサキ 高校二年生 女子
ナツミ 高校二年生 女子
アカネ 高校二年生 女子
担任 全員の担任 女性 二十四歳
一場 教室
下手側に教卓。生徒たちの机は下手に向かって並べられている。
ミサキ、ナツミの2人が座って、どうでもいいような話をしながら笑っている。
サヤカのみ一人で座って本を読んでいる。サヤカ、眼鏡に三つ編み。スカートが長い。一番前の席。
タカシ、上手から登場。おびえたように教室に入ってくる。
ナツミ、タカシの顔を見てゲラゲラ笑い出す。
タカシ、笑われたことに傷つきながらも、何も言えずにそっと一番後ろの席につく。
ミサキ (ナツミに)あんたこいつの気持ちの悪い顔を見てよく笑えるねえ。
ナツミ だっておもしろいんだもん。顔もヘンで面白いけれど、女子に何にも言えずにくやしそうにしてる顔がものすごくおもしろい! なにその顔!
ナツミ、またゲラゲラ笑う。
ナツミ ねえねえ、どんな気持ち? やっぱりくやしい? 毎日毎日笑われてからかわれて、バカにされてくやしい?
ミサキ (タカシに)おいっ、質問されてるんだから答えろよ!
タカシ いや、別に…。
ナツミ そんなことはないよねえ。はらわたが煮えくりかえってるのがよくわかるよ。だけど何にも言えないんだよねえ。そんなにくやしかったら泣いたら? もっとおもしろくなるし。そうだキミ、前にウチが、タッパーに肉を入れて持ってきたのをうれしそうに食べてたじゃない。それがドッグフードだって聞かされた時の泣きそうな顔! あの時の顔にそっくりだよ、いまのキミ!
ミサキ あの時のことを思い出すと今でもむかつく! うれしそうに食べやがって! だれがおまえなんかにまともな食べ物をくれてやるか! おまえみたいな気持ち悪い奴が毎日ものを食ってると思うだけでむかつく!
タカシ 食べないと、死んじゃうから…。
ミサキ 死ねって言ってるんだよ! この地球上には食べられなくて飢えている人がいくらでもいるんだ! なんでおまえみたいな奴が平気な顔して食って寝て生きてるんだ! だいたい、なんで女ばっかりのコースに入ってきたんだ! 男ひとりだからモテるとでも思ったのか!
ナツミ (タカシに)へえ、そうなの?
タカシ いや、ただ希望の進路に沿っただけで…。
ミサキ えらそうに言うな! おまえ、専攻の成績もほかとおんなじでいっつもビリじゃねえか!
ナツミ (タカシに)だったらこのクラスでだれがいちばんいいの?
ミサキ (ナツミに)くだらないことを聞くな! あたしのことが好きとか言われたら、あたしは本当に吐くぞ!
ナツミ まあまあ、ウチの名前を出したら今まで以上にバカにしてあげるよ。
ミサキ 絶対にあたしの名前なんか言うんじゃねえぞ!
ミサキ、タカシの机を蹴飛ばす。大きな音を立てて机が床に倒れ、タカシがおびえて椅子に座っている様子が丸見えになる。
ナツミ それでだれなの? だれが好きなの? 教えてほしいなあーっ。
タカシ サヤカ…。
サヤカ、びくっとする。
ナツミ えーっ。きこえないー。
タカシ サヤカっ!
サヤカ、本から顔を上げて呆然とする。逃げるように上手に退場。
ミサキ (タカシに)おまえ、今何をしたかわかってるのか! サヤカは今のことが一生のトラウマになるぞ! よりにもよっておまえなんかに告白されたんだぞ! ゴキブリに愛された方がずうっとマシだ!
ナツミ そーだ、そーだ!
タカシ すみません、すみません!
ミサキ あたしたちに謝ってどうする! おまえが傷つけたのはサツキだ!
ナツミ (笑いながら)キミは、ミサキの名前を出せば怒られる。ウチの名前を出せばバカにされる。それでサツキの名前を出したんだよ。そんなことをすればサツキがいやがることがわかっていながらね。サツキだったら自分が損をしないっていう自分の都合でね。本当に人間のクズだねえ。
アカネ 上手から登場。
アカネ おはよーっ…て。あれ、サツキはどうしたの? いつも早いのに。
ナツミ (笑いながら)聞いてよ…。タカシがねえ、サツキの告白して、サツキがいたたまれなくて出てっちゃって…。
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