『あいまい乙女巡礼』
〜 僕が夜空に上がっていられるのは、皆さんが僕を憧れの王子様として祭り上げる、その力によって上がっていられるのです 〜
『あいまい乙女巡礼』
〜 僕が夜空に上がっていられるのは、皆さんが僕を憧れの王子様として祭り上げる、その力によって上がっていられるのです 〜

         2012.7 作:四次元STAGE 岡野陽平

■■CAST■■ (7名以上)
女?
女?
女?
女?
少女
芸者(男)
星王(男)


オープニングダンス
第1場 女達⑴ 募集
第2場 妹と星王(1)
第3場 女達⑵ 乙女峠
第4場 芸者と妹(1)
第5場 女達⑶ 乙女駅
第6場 妹と星王(2)
第7場 女達⑷ 海外
第8場 芸者と妹(2)
第9場 女達⑸ だらくにゃ
第10場 妹と星王(3)
第11場 女達⑹ 合流
第12場 結末

■■舞台図■■ (もちろん変更可)

■舞台奥に高台と、
 その左右(上手と下手)にスロープor階段。
■はけ口は3カ所。上手、下手、舞台奥。
■上手奥(スロープより奥)のやや高い位置にロケット。
 下手奥の高い位置に乙女座。



■■オープニングダンス■■

■五節の舞。鎌倉時代の和装をした乙女たち。羽織を羽織って。
■バックに星の王子さま(星王)が現れて歌いだす。

〔星王の歌〕
  夜空からは全ての物語が見える
  宇宙に輝く星の数と
  同じ数だけ地上にも
  物語が生まれ、消えていく

  この物語は何だろう
  ギリシャの神話か ジャパンの古典か
  史実か寓話か幻想か
  この物語は何だろう
  今まで見たモノと同じようで
  全てを含んで また違う

  夜空からは全ての物語が見える
  この物語は何だろう
  あなたも飛べば解りますよ?


■センターに、女芸者(の格好をした男)が現れ、一緒に踊る。
■羽織の袖を5回振る。それが五節の舞の決まり。

■合図で、皆止まる。静かな曲調、静かな歩みへ変わる。
■ゆっくりと羽織を脱ぐ。
■羽織を脱ぐと現代の服装。折りたたんだ羽織を胸の前に掲げる。
■皆が羽織を脱いで芸者に預け、芸者はまとめて舞台奥へと奉納しに消える。


■■第1場 女達⑴ 募集■■

■オープニングダンスの直後。続けて。
■突然に、一人の女(女?)が人々に呼びかける。
■人々(女?〜?、星王、少女)は何となく耳を傾ける。芸者はすでにいない。

女?「募集しています、募集します!
  我々で取り返しましょう。
  その所有は我々に帰属すべきなのだから!

  募集しています、募集します!
  我々で奪い返しましょう、
  盗まれたままにしていいはずがありません!

  募集しています、募集します!
  皆さんのブレイブ(勇気)を!
  皆さんのジャスティス(正義)を!
  集え、under the 乙女の旗!」

他「乙女の旗?」「乙女の?」
■周りが興味を持って聞き始める。?はそれを受けて演説を続ける。

女?「everyone、戦いましょう!
  戦わなければ、奪われます!
  取り返さなければ、失われます!
  このまま黙って見過ごしていいはずがありません!

  everyone、戦いましょう!
  憂慮すべき事態です。
  今すぐに立ち上がって、速やかに戦うのです。
  今ならまだ、奪われたモノを we can get back!
  今なら、yet!!

  皆さん、奪い返しましょう!
  皆さん、立ち上がりましょう!
  集え、under the 乙女の旗!」

星王「何を募集してるってー?」
女?「何を集めているって?」
女?「何を集っているって?」
女?「何がunder the 乙女の旗?」

■周りが興味を持ち始めたのを受けて。
女?「有志です。勇気ある女性達が集まって、義勇軍を結成するのです」

星王「女性達? 女性だけ?」
女?「女だけ?」
女?「女子だけ?」
女?「おなごだけ?」

女?「Yes! Ladies and、やっぱりladies」
星王「・・・。アディオ〜ス」去る
女?〜?「サヨナラ、星の王子さま♪」
星王「サヨナラ〜♪」

少女「ガールズは?」
女?「未成年者は保護者の許可書が要るの」
■釈然としない感じで去る少女。 

■女達3人だけが残る。
女?「何を取り返すって?」
女?「何を奪い返すって?」
女?「何が失われるって?」

女?「我々は確かに奪われたのです、我々にとってとても大切なモノを。
  神が我々に与えたもうた、女の所有物を。
  盗まれたのです巧妙に。奪われたのです気づかぬ間に」

女?「何を奪われたって?」
女?「何を取られたって?」
女?「何を盗まれたって?」

女?「何を奪われたか知ったなら、皆さんは頭をカッカッと沸騰させて怒り狂うか、滂沱の涙を流して嘆き叫ぶでしょう、『返せ!』と」

女???「何、を!?」

女?「我々は奪われたのです、つまり、我々自身の『乙女』を!」
女???「乙女を!!?」

女?「何を言ってるの? 意味が分からない」
女?「乙女って盗めるの?ふふふ(笑)」
女?「いやらしい意味じゃないでしょう?あはははは(笑)」

女?「信じられませんか。認めたくありませんか。
  当然です、当然の反応です。
  しかし、思い出すのです」

女?「例えば!
  バレンタインでチョコを手作りしようとして
  湯煎に刺した温度計をじっと睨んだ、あの」
唱和「情熱の瞳を失って」
女?「洋菓子屋のコジャレた既製品を買って済ませたのは」
唱和「いつの年だ!?」
女?「まさか、ここ数年チョコを用意することも無かったというヒトは」
唱和「誰だ!?」


女?「例えば!
  ぬいぐるみを買うときに、
  その可愛さやその手ざわりで選んだり、
  この子と目が合った」
唱和「運命の出会い!」
女?「を信じて買う『のではなく』、
  顔を押し当てての枕にしやすさ、
  抱き枕として股ぐらに挟んだ時のがっしりとしたボリューム感や、
  洗濯のしやすさで選ぶようになったのは」
唱和「いつからだー!」

■オイオイと泣く。
女?「プレゼントで花束をもらった時に、それよりケーキが良かったと思ったのは誰だ?」
■他の女達を指差しながら、しかし
女?「私だ!」 自ら崩れる
女?「写真やプリクラで平気で変顔するのは誰だ?」
女?「私だ!」 自ら崩れる
女?「上下チグハグの下着を付けているのは誰だ!?」
女?「私だ!」 自ら崩れる

■女?が崩れた3人を差しながら
女?「通勤電車の中で化粧をするヤツは誰だ!?
女???「私だ…」
■女?やや勝ち誇る
女???「女子トイレに行列が出来てる時に、空いてる男子トイレに飛び込んだのは誰だ!?」
女?「私だ」崩れる

■皆ボロボログチャグチャに泣きながら。

お弁当に彩りがなくなったのはいつからだ!
会社帰りに平気で牛丼を買って帰るようになったのはいつだ!
ケーキを一度に10個しか食べてないのに、胸焼けしたのは誰だ!
太ってもダイエットしなくなったのはいつからだ!

飲み屋に入って最初の注文がカルーアミルクじゃなく生中になったのはいつだ!
『サラダ下さい』じゃなくて、『鳥皮、塩』って単語だけで注文がするようになったのはいつだ!
面白いからって、鼻に箸やエダマメを刺すようになったの誰だ!
お持ち帰りを期待しての寝たふりじゃなくて、マジ寝でイビキをかくのは誰だ!

友人が結婚式の準備をしてる話を聞いても「教会? それとも神社?」って聞く興味もなくなったのはいつだ!
結婚式でブーケを取るのに、既婚の友達にもキャッチを頼んで『取ったら頂戴!』って言ったのは誰だ!
そもそもブーケを取りに行かなくなったのはいつからだ!

雑誌の恋占いを読まなくなったのはいつからだ!
初デートなのに相手の年収を聞くヤツは誰だ!
人の恋バナより別れ話の方が楽しくなったのはいつからだ!
結婚を申し込まれたのに、『詐欺かも』なんて考えたのは誰だ!

■いまや阿鼻叫喚。

女?「ヤツは、ヤツは我々の乙女を奪った。間違いない。
  その事実から目を逸らすことは出来ません!
  皆さん、奪い返しましょう!
  皆さん、立ち上がりましょう!
  集え、under the 乙女の旗!」
唱和「集え、under the 乙女の旗!」

女?「行こう! ヤツから奪い返しに!」
唱和「奪い返しに!」
女?「行こう! 我々のうら若き乙女を救いに!」
唱和「乙女を救いに!」

女?「されば、我々は奪われた我々の乙女を奪還するため、今ここに『ぷち乙女十字軍』の結成を宣言します!」
唱和「ぷち乙女十字軍!」

女?「行こう!ヤツから奪い返しに!」
唱和「奪い返しに!」
女?「行こう!我々のうら若き乙女を救いに!」
唱和「乙女を救いに!」
女?「ピチピチのお肌を取り戻しに!」
唱和「ピチピチのお肌を!」
女?「行こう、乙女巡礼へ!」
唱和「乙女巡礼へ!」

女?「で、まずはどこへ行くの?」
女?「分かりません」
唱和「分からない!?」
女?「どこへ行く事も可能なのだからあなた!あなたが示すのです」
女?「私!?」
女?「そう」
女?「私が行く先を決めていいの?」
女?「Yes!」
女?「どうやって?」
女?「どうとでも!」
女?「・・・新しい世界が待っている。目の前に道が開けている。
  いつだって、現在は無限の未来への分岐点。
  顔を上げて前へ進もうとする、迷いのない私の意志が、
  希望に満ちて指を差す。あっちよ!」

女?「あっちね」
女?「行きましょう!」
唱和「オーー!」
■行軍する女達。退場。





■■第2場 妹と星王(1)■■

■夜空で歌う星の王子さま。ららら〜
■どこからか、ふらっと少女が現れて、声をかける。

少女「あの、すいません」
星王「ららら〜」
少女「あの、すいません」
星王「はい、初対面ですが許しません」
少女「そう言われると」
星王「問うに問われず?」
少女「許されざる恋があるのなら、許されざる問いがあっても」
星王「いいと?」
少女「思いませんか?」
星王「思います」
少女「では問います」
星王「はい」

少女「あるヒトを捜しているのですが、夜空から見かけませんでしたか?」
星王「なんとも漠然とした人捜しだな。 どんな人ですか?」
少女「たぶん男の人です」
星王「性別さえも不明」
少女「私の兄なんです」
星王「兄? 兄というなら男でしょう?」
少女「おそらく」
星王「お空は空(くう)です。お空の、果てしがなく漠然としてつかみ所のない様を『おそらく』といいます」
少女「そうだっけ?」
星王「あなたも飛べば解りますよ」
少女「遠慮します」

星王「それで、お兄さんは?」
少女「姉かもしれません」
星王「どちらでしょう?」
少女「兄であったり、姉であったり」
星王「つかみ所がないですね」
少女「だから見つからないのです」
星王「がっちりと掴んでから見つけることです」
少女「その掴んだ手の先にね」

星王「少なくとも私には分かります」
少女「というと?」
星王「うん、たぶん、それは、僕ではないね」
少女「おそらくね」 

星王「では、今はとりあえず」
少女「その人、としましょう」 
星王「そのヒトを知るには、その人の性別ではなく」
少女「外見ではなく」
星王「その人の行動を見るのです」
少女「その人の行動は・・・その人は次々に女の人の『乙女』を盗むのです」
星王「次々と乙女を?」
少女「奪うのです」
星王「む、それはかの光源氏ですか?」
少女「どちらかというと吸血鬼」
星王「ドラキュラ?」
少女「むしろバートリです」
星王「バートリ・エルジェーベト! ハンガリーの?」
少女「血の伯爵夫人」
星王「恐ろしい」
少女「おぞましい」
星王「ということは、その人は女なのでは?」
少女「そう思います」

星王「うん、なるほど!」
少女「見かけましたか?」
星王「いや! しかし、分かった!」

星王「君のつかみ所のない情報を、掴んで千切って丸めたところ、冥界の王ハデスより、一つの天啓を得た!」
少女「冥界の王ハデスより?」
星王「ハデスより!」
少女「それを『天啓』と呼ぶのでしょうか」
星王「天からではない、地の底の冥界からなので」
少女「地啓?」
星王「その地啓が申しております。あっちいけ、と」(指差す)
少女「あっち、ですか」(向いて、二三歩進む)
■その隙に、スーッと指は別方向に。
少女「・・・」(星の王子をジッと見つめる)
星王「その男は移動している!」
少女「確かですか?」
星王「確かです」
少女「では誓って下さい。あの春の夜空に顔を出したばかりのおとめ座、その中で一番輝いているあの星に誓って」
星王「スピカに!?」
少女「そう、スピカに」
星王「分かりました。あっちです」(さらに別の方角を指差す)
少女「ありがとう」
星王「どういたしまして」
■少女去る。王子歌う。ららら〜





■■第3場 女達(2) 乙女峠■■

■乙女峠を登る女達。歌のリズムに合わせて。

〔乙女峠の歌〕
  乙女峠を上ったら  私の乙女は上り坂
  乙女峠を通り過ぎたら  私の乙女は下り坂

  乙女峠を上ったら  私の乙女は上り坂
  乙女峠を通り過ぎたら  私の乙女は下り坂

■乙女峠の歌をリピート。
■乙女峠を往復して上ったり下りたりしながら会話が続く。

女?「我々ぷち乙女十字軍は、現在乙女巡礼中である。
  日本全国津々浦々、乙女と名のつく場所を訪れる。
  乙女に所縁ある土地を訪ねる。これを乙女巡礼という」

女?「ヤツ程の人物ならば必ず乙女巡礼しているはず」
女?「その痕跡を追うのです」
女?「なるほど!」
女?「隊長、質問があります!」
女?「むむ、その前に私からも質問がある」
唱和「なんでありませう隊長!?」
女?「いつ私は隊長になったのであらう?」
唱和「ぷち乙女十字軍結成の直後より!」
女?「あなたの人差し指が私達の進路を決めたその時より」
女?「なるほ〜ど! して、質問は何だ?」
女?「は! 我々の追っているヤツってダ〜レ?」

女?「誰だろう?知ってる者は、挙手!」
■しーん。
女?「知らない者!」
■全員挙手。
「わー!きゃー♪ 一緒〜! ねー! あなたも、あなたも?」

女?「ねぇねぇねぇねぇ、これって大問題じゃない?」
女?「そもそもヤツって、いるの?」
女?「大問題にして大前提ね」
女?「ぷち乙女十字軍を組織して、乙女巡礼して」
女?「ここまでやって」
女?「そもそもヤツって、いるの?」
女?「大前提だわ」

女?「いるわよ・・・。いい? 順を追ってよく考えてみて。
  私たちは私たちの乙女を失っている」
女?「失っている、確実に」 (みな思い出して落ち込む)
女?「それが・・・私たち・自身の・責任で・ある・はずが・ない!」
女?「そうよ!」
唱和「私たちのせいじゃない!私たちは悪くない!」
女?「誰かのせいよ!誰かのせいね!」
女?「その誰か。それがヤツよ」
女?「・・・いる、ヤツは確かにいる」

女?「見つけて。捕えて。ふんじばって。懲らしめて。乙女を奪い返さなきゃ」
女?「男? 女かも?」
女?「男であったり女であったり」
女?「男であれ女であれ、
  見つけて。捕えて。ふんじばって。懲らしめて。乙女を奪い返さなきゃ」

■峠の奥から芸者が、『茶店』『だんご』と書いた旗指物(のぼり)を持って現れる。
■峠の傍に差して立てると、そこはもう茶店。
芸者「お団子いかがですか〜?」
女?「あ、茶店よ。峠の茶屋よ」
女?「休みましょ、休みましょ。休憩〜」
芸者「いらっしゃい」
女?「お団子ください」
芸者「はい〜。はい、どうぞ」
■食べる一行。
各「美味し〜」
■そのまま、流れるように芸者は峠を降りる。
■食べる一行。
各「美味し〜」
女?「お茶欲し〜い」
女?「ちょっと待って、ちょっと待って」
他「何?」
女?「今の・・・今のがヤツよ!」
女?「どういうこと?」
女?「いいから追うわよ!」
女?「峠を降りるのね」
女?「待って。ダメよ。そっちは上ってきた道よ!」
女?「え?」
女?「そっちへ戻ったら峠を越したことにならないわ」
女?「そうよ。峠は折り返し地点だけど、Uターンって意味じゃないわ。峠は越えなきゃ!」
女?「何言ってるの?」
女?「そこに峠があるからよ!」
女?「・・・そんなことは訊いてない!」
女?「転がり落ちなければいいのよ」
女?「もし峠を越えれなかったら・・・」
女?「死ぬ?」
女?「そんな!」
女?「ここで待機」
女?「早くしないと追いつけなくなるよ!」 ジリジリ
女?「隊長命令だ!」
女???「(ハッとして) はい、隊長!」
女?「そしてこれが最後の隊長命令である!」
他「え?」
女?「進路に迷った集団は、あとはただ乱れるのみ!」
女?「いえ、まだ隊長のもと団結しております!」
女?「いや!各いう私が迷っている!!」
女?「なんたること!」
女?「されば!?」
女?「されば、今ここ乙女峠の真ん真ん中において、『ぷち乙女十字軍』を解散し」
唱和「解散し!」
女?「新たに『ショート乙女解放戦線』を敷く!」
唱和「ショート乙女解放戦線!」
女?「行こう! ヤツから奪い返しに!」
唱和「奪い返しに!」
女?「行こう! 我々のうら若き乙女を救いに!」
唱和「乙女を救いに!」
女?「集え、under the 乙女の旗!」
他「待って、それは 茶店の旗!」

女?「さぁ、あなたが道を選んで」(旗を渡す)
女?「私!?」
女?「そうよ」
女?「・・・ここに迷える仔羊達がいます。
  仔羊全員が全員、迷っていても仕方が無い。
  少なくとも誰か一匹は自信を持って、確信をもって道を示さなくてはいけない。
  自信を持って、淀みなく、迷いなく、皆に明るい未来を示す!
  そんな気概で指を差す。あっちよ!」
■それは峠の前でも後でもなく第3の方角。(舞台前)
他「え!?」
女?「そっちは崖よ!?」
女?「あっち行って、こう(上手か下手か)」
他「・・・」
女?「聞くなかれ!問うなかれー!」 (と言いながらすでにジャンプ!)
他「とう!」 (「問う」、と言いながら後に続いてジャンプ!)
■走って去る乙女達。





■■第4場 芸者と妹(1)■■

■少女が女芸者(男)を見つけて。
少女「あの、私のお兄ちゃんですか?」
芸者「なんだいあんた、藪から棒に。私が男に見えますか」
少女「敢えて言わせていただけるなら」
芸者「あえちゃダメ。失礼な子ね」
少女「お兄ちゃんではないですか?」
芸者「人違いどころか、性別違いですさようなら」
少女「待って!」
芸者「・・・」 (無言で去る)

少女「待ってよ、お兄ちゃん!」
芸者「お兄ちゃん? お兄ちゃんと呼ばれて止まるおかまはいないよ」
少女「やっぱりおかまなんですね?」
芸者「never!私は女です!」
少女「生まれたときから?」
芸者「初対面からグイグイ来るわね」
少女「ごめんなさい、私」
芸者「必死なのね」
少女「はい」
芸者「でも、女性に対してお兄ちゃん呼ばわりは、必死よ。
  文字通り必ず死ぬわよ」 (握りこぶし)
少女「じゃぁお姉ちゃん」
芸者「・・・じゃぁ!? J・A・X・A!?」
少女「あるいは J・A・L・A」
芸者「あぁ、あなたは!生まれた直後に引き裂かれ、
  その存在すら誰も教えてくれなかった生き別れの双子の妹!」
少女「そういう姉はいません」
芸者「のってあげたのに」
少女「乗り間違いです」

芸者「残念だけど、私はあなたのお兄ちゃんじゃないよ」
少女「そうですか」
芸者「だって私は女だもん♪」
少女「・・・。では、仮にあなたが私の兄ではないとして」
芸者「仮なの、ねぇそっちが仮なの?」
少女「手伝って下さい、兄を捜すのを」
芸者「え、いやよ、知らないわよ」
少女「兄は多くの女性を泣かせたヒドい男です」
芸者「無視かい!」
少女「女の人を次々と捨てる光源氏のように」
芸者「あら、光源氏は意外と、後で女達の面倒をみているのよ?」
少女「あるいは女癖の悪い、ギリシャ神話のゼウスのように」
芸者「ゼウスに流れるラテンの血がそうさせるのね」
少女「そんな兄が、突然、家出したんです」
芸者「自由だわぁ〜自由人だわお兄ちゃん」
少女「月が潜み、いつもより強く乙女座が輝いていた春の夜、兄は、寝ている私の部屋に入ってきた」
芸者「それで?」
少女「その晩のうちにこっそりと家を出て、闇夜に消えて二度と帰って来なかった」
芸者「何があったの?」
少女「兄が妹に何をしたのか、兄の口から聞きたいのです」
芸者「それで捜しているのね。お兄ちゃんの罪を責めるために」
少女「いえ。ただ理由を聞くためです」
芸者「ふ〜ん」
少女「どう思いますか?」
芸者「お姉ちゃんだったんじゃない?」
少女「分かりますか!?」
芸者「さぁね。あなたのお兄ちゃんの気持ちを、私に聞かれたって知らないわよ」
少女「・・・」
芸者「だって私は女だもん♪」
少女「まだ言いますか」
芸者「まだ!? M・A・D・A!?」
少女「私のお兄ちゃんじゃないですか?」
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