県令室の椅子
椅子語り -ep.2
県令室の椅子
-椅子語り ep.2

舞台は明治期の福島市。
たくさんの椅子が部屋の壁のようになっており、その部屋の真ん中に、福島県令の三島通庸が座っている。
何やら思案している様子。そこにノックの音


三島 「入れ」
原  「失礼しまーす」


浮世絵でクリスチャンの原胤昭(はらたねあき)が入ってくる


原  「お目にかかれて」
三島 「光栄などという戯言はやめてくれ。聞きたくもない」
原  「光栄です。冥土の土産に、良い話ができた」
三島 「そうか、それは良かった」
原  「・・・(握手を差し出す)」
三島 「シェイクハンズ」
原  「さすがは三島県令」
三島 「原くんはクリスチャンだったね」
原  「ああ、こんな僕のこともご存じなのですね」
三島 「自分の敵のことは調べ尽くす性質でね」
原  「敵! ずいぶんとはっきりと物を申す」
三島 「薩摩出身だからかな」
原  「お国訛りがあまり無いので」
三島 「知らなかったか?」
原  「知っておりましたが、まさか、ここまで日本語がお上手だとは」
三島 「日本人だからね」
原  「はははは」
三島 「何がおかしい?」
原  「いや、薩摩が日本を制圧したと、そう思っておりますので!」
三島 「君もずいぶんはっきりと物を言う」
原  「お嫌いですか?」
三島 「嫌いではない」
原  「ならば、単刀直入に」
三島 「単刀?私に刀を向けるのかい?」
原  「なにを。もう、向けてしまったから、呼び出されているのでしょう。いや、驚きました。捕まるのは覚悟していましたが、ここに呼び出されるとは!県令室!まさかのVIP待遇だ!」
三島 「気に入ってもらえたかね?」
原  「僕を目の前で、処刑するとか、そういったお趣味が?」
三島 「そんな趣味はない。死体なぞ、先の戦で見飽きた」
原  「では、なんでしょう…?」
三島 「君に聞きたいことがあってな」
原  「ははは! 僕に? どうぞどうぞ!」
三島 「なぜ、あんなふざけた錦絵を出版した」
原  「ふざけた?」
三島 「天福六家撰(てんぷくろっかせん)」
原  「ご購入いただけたのですか!銀座十字屋店主として御礼を」
三島 「優秀な部下が届けてくれたのだ。素晴らしい錦絵があると」
原  「それはそれは」
三島 「転がり、覆る。転覆」
原  「天からの幸福ですよ。天福」
三島 「この絵では、政府に天福を与えようとそういう意図に見える」
原  「ええ、天福を」
三島 「おかしな話じゃないかね、原くん」
原  「何がですかね、県令」
三島 「君は経験なクリスチャンだと聞いている。アメリカ人宣教師の、」
原  「クリストファー・カロゾルフ神父から洗礼を」
1/5

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。

ホーム