ヴェルモット・フラワーズ
『ヴェルモット・フラワーズ』
清野 和也 作
【キャスト】
・マスター
・中納
・月代
舞台は、福島県福島市にあるバー「Black comet club」。50代くらいのマスターと、20代後半くらいにみえる女性店員。カウンターに6席ほど店の奥に4人が囲んで座れる小さなテーブル。
店内は大人っぽく、しかし、ところどころに遊びご心のある置物がある。キャンドル、熱帯魚の水槽、本・・・。可愛らしいコウモリが吊るしてあるからか。
雨降りの梅雨の夜。20代の女性、月代が濡れた傘を手に、店のドアを開く。店の中はほぼ満席。カウンターの真ん中の席が空いている。
月代 「…こんばんは。やってますか?」
中納 「いらっしゃいませ。どうぞ、空いている席に」
月代 「ええ…」
中納 「雨、でしたか?」
月代 「はい、今日も雨で」
中納 「梅雨ですからね」
月代 「星、見てないなあ…。最近」
月代、聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやきながら、カウンターの席に座る。
中納 「何になさいますか? 」
月代 「えっと… ネグローニってあります?」
中納 「かしこまりました。ネグローニ、お願いします」
中納の注文にマスターが頷き、ネグローニを作り始める。氷を砕く音、グラスを取り出す音がする。月代は、この店の前にも少しお酒を飲んできているらしい。
月代 「一月(ひとつき)も続いてるんです。」
中納 「ひとつき」
月代 「ちょっとおかしくないですか? 星見えないが、ひとつき」
中納 「どうでしょう?」
中納は、微笑みながら答える。見た目の割には落ち着いた雰囲気。
月代 「あの! わたし、月代って言います」
中納 「月代、さん。素敵なお名前ですね」
月代 「そうですか…? ちょっと古臭くて…。死んだお爺ちゃんがつけてくれたんですけど… あの、年同じくらいじゃないですか…??」
中納 「どうでしょう?」
月代 「そうですよね? お名前お伺いしてもいいですか??」
中納 「えっと… 中納(なかの)です」
月代 「中納、さん」
中納 「中納でいいですよ」
月代 「じゃあ、中納」
中納 「はい、月代さん」
月代 「月代で」
中納 「月代」
月代 「ええ。……良かったぁ。なんだかこういう場所一人できていいものかわかんなかったから」
中納 「そうですか?」
月代 「そう、でもなんだか惹かれちゃって。Black comet club。一緒に来る友だちも」
中納 「いない?」
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