妻の置き手紙
『妻の置き手紙』 岡本ジュンイチ・脚本
登場人物
田宮有治
川島章太郎
田宮恵
1
舞台は、マンションの一室にある、田宮家の台所。
舞台中央には、一つのテーブルと二つの椅子が置かれてある。
テーブルの上には、一通のA4型の封筒と置き手紙がある。
玄関から、主人公・田宮有治が登場。
有治はバッグを手にしている。
有治「ただいま〜。恵さん、今日の晩ご飯は? 恵さ〜ん?」
有治、辺りを見回す。
有治「いないのか。どっか出かけてるのかな……。」
有治、ふとテーブルの上にある封筒に気づく。
その封筒をおそるおそる開けて、ぎょっとする有治。
彼は、テーブルの上にある手紙を取り、しばらくじっと読み出す。
間。
有治「なんだこれ……どういう意味だ?」
有治、バッグからスマートフォンを取り出し、電話をかける。
そんな状況の中、赤子を抱えているスーツ姿の男・川島章太郎が登場。
章太郎、有治の様子を舞台隅からじっと見守っている。
有治「あ、もしもし。……なんだ、留守電か。……(いらだった様子で)……ああ、もしもし、有治だけど。台所の置き手紙を読ませてもらったよ。それ、いったいどういう意味なの? というか、今どこにいるの? できれば君と、直接話がしたい。また返事を下さい。それじゃ。」
電話を切る有治。
章太郎「あなたが、有治さんですか?」
有治「……え?」
章太郎「恵さんから話は伺っておりますよ。なんでも、恵さんを精神的に追い込ませているらしいじゃないですか。おかげで彼女の精神状態がどうなっているのか、あなたでもこれで、十分わかったでしょう。」
有治「ああ、あの……どちら様でいらっしゃいます?」
章太郎「ああ、申し遅れました。私は、川島章太郎と申します。いつも奥さんにはお世話になってます。」
有治「(苦笑いして)はあ。で、どうしてウチに。」
章太郎「あなたの奥さんから鍵を預かりました。その鍵で、こうして中に入らせていただいています。」
有治「はあ……ウチの妻とは、お知り合いでいらっしゃるんですか。」
章太郎「ええ。すみません、ちょっとこの子を寝かせてきますね。」
有治「え、ええ……」
章太郎、舞台の奥へ退場。
間。
キイッと頭をかきむしる有治。
有治「(傍白)なんなんだ、あの男は。うちの息子に気安く触って! というか、ここ僕の家だよね? なんだ、あの図々しさは。」
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