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アイリーン

「アイリーン」

登場人物

愛(あい)理(り)　　高校二年生　女子　文芸部長
拓(たく)哉(や)　　高校一年生　男子　文芸部員
松永(まつなが)　　文芸部顧問　女性

開幕
一場　文芸部室　放課後
愛理がひとりで、机に向かって何かを書いている。真剣な様子。
松永、琢也を伴って部室に入ってくる。拓哉、カバンを提げている。

松永　　アイリーン、いるかぁぁっ。
愛理　　(顔を上げて)誰がアイリーンですかっ。あたしの名前は愛理です！
松永　　喜べ。新入部員を連れてきてやったぞ！
愛理　　新入部員？　もう秋だっていうのに？
松永　　一年生の、鍋島拓哉くん。今はもう、幽霊部員二人を除けば、文芸部員はもう、部長のあんたひとりだし、助かるんじゃないの？
愛理　　いまさら一人増えても同じでしょう。(拓哉を見て)ええっ、たしかこの子は…。
松永　　そう、男子バスケットボール部のエースだった。だけど怪我をして退部、文芸部に入りたいそうなんだよ。まあ、ウチのクラスなんだけどね。
拓哉　　(愛理に丁寧に頭を下げる)よろしくおねがいします！
松永　　それじゃあ私は、会議があるから。いろいろ教えてやってちょうだい。たのんだよ！
愛理　　ちょっと…、ちょっと先生！

　　　　松永、退場。愛理と拓哉、取り残される。愛理、気まずい。

愛理　　まあ…、座りなさいよ。
拓哉　　失礼します。

　　　　拓哉、椅子に腰掛けて、スポーツマンらしく背筋をピンと伸ばす。愛理、それを見てなんだか落ち着かない。

愛理　　…部活の活動内容を説明すると、秋の文化祭に向けて部誌をつくるの。自分たち…、と言っても、さっきまであたししかいなかったんだけど、その創作、小説が主だけれど、それを載せて当日無料配布する。それから、時期的に同じになっちゃうけど、県の文芸誌に投稿する。もっともこれは、入選したことなんかないけど。一応部誌の原稿とは別に用意する。わかる？
拓哉　　はいっ！
愛理　　そして部誌をもう一冊。新入生歓迎号をつくる。内容は文化祭のときとおなじ。わかった？
拓哉　　はいっ！

　　　　なんとなく、間。

愛理　君…、好きなジャンルとかあるの？
　拓也　　特には…、「スタンドバイミー」が好きです。
愛理　　音楽じゃなくて、小説のジャンルを聞いてるの！ラノベとか読むの？
拓哉　　ラノベとは…？
愛理　　ライトノベルのことだけど、読まないんだね。じゃあ、純文学とかは？
拓哉　　純文学とは何ですか？
愛理　　芥川龍之介とか、中島敦とか、井伏鱒二とか。
拓哉　　「羅生門」と、「山月記」と、「山椒魚」は読みました。
愛理　　全部教科書に載ってたやつだよね。ミステリとかは？
拓哉　　ミステリとは何ですか？
愛理　　読まないんだね。なんで文芸部に入りたいの？　好きな小説のジャンルとかないのに。
拓哉　　木下愛理さんの小説が好きです。

　　　　愛理、驚いて何も言えない。

拓哉　　入学した時、文芸部の新入生歓迎号をもらって、初めて先輩の小説を読みました。この「やさしい世界」が本当に魅力的で、もしバスケットがなかったら、文芸部に入りたいと本気で思いました。怪我でバスケットができなくなったのは残念ですけど「高校に入ったらやってみたかったことのもう一つができたら」と思って文芸部への入部を希望しました！
愛理　　そうなの…。

　　　　拓哉、カバンを開いてＡ４用紙を一枚取り出す。

拓哉　　それで、昨日生まれて初めて小説を書いてみたんですけれど、見てもらえますか？

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