嘘と鈴音(3人)
嘘と鈴音
登場人物
遠山(とおやま)鈴音(すずね) 中学二年生 一樹の妹
遠山(とおやま)一樹(かずき) 高校二年生 幸菜の兄
香坂(こうさか)幸(ゆき)菜(な) 高校二年生 一樹の同級生
一場
民家のリビング。鈴音と一樹、部屋着姿。テーブルをはさんで向かい合い、コンビニの弁当を食べている。
一樹 (食べ終わって)ごちそうさま!
鈴音 相変わらず速いね…。
一樹 オレが食べていたのはカツ丼だぞ。
鈴音 だから?
一樹 ご飯を食べ終わる前に、具がなくなってしまったらどうする!
鈴音 カツもゆっくりたべればいいのに。
一樹 カツがなくなる前にご飯を食べなきゃと思って食べていると、いつのまにか加速がついちゃうんだ!
鈴音 だったら、カツ丼じゃなくて、幕の内でも牛丼でも同じじゃないの。
一樹 だから、みんな速いじゃないか。
鈴音 パスタでも速いじゃない。あれは、おかずと主食がわかれてないよ。
一樹 カニ鍋は遅いぞ。
鈴音 質問に答えてないね。
一樹 だから、カニは好きじゃないんだ。
鈴音 アニキにも嫌いなモノがあったんだ。あたしは昔から偏食ばっかりで、小学校六年の時の担任が、「全部食べろ」っていう人で、本当に困ったよ。
一樹 あの時はお袋が小学校に乗り込んでいったよな。
鈴音 いやなこと思い出させないでよ。
間。鈴音はだまって食べ続ける。
一樹 (ごまかすように)おれがカニを好きじゃないのは、苦労して身をほじくったわりに、大してうまくないからだ。なんていうか、スカスカの味っていうかなんていうのか。おれは甘いものとか、脂っこいものとか、味がはっきりしているものが好きなんだ! だからメロンパンも好きじゃない! 外はカリカリ、中はふわっととか言うけれど、そういう微妙な味じゃなくて、思いっきり甘いアンパンとか、死ぬほどからいカレーパンとか、ソーセージが見えないくらいケチャップとマスタードがかかっているホットドッグの方が好きだ!
鈴音 それは結構だけど、毎日毎日コンビニのお弁当ってどうなのよ。
一樹 お袋の手料理が食べたいのか?
鈴音 全然。
一樹 だったらいいじゃないか。おれは好きだぞ。コンビニの弁当。最近はいろんな種類があるし、油っこいし、味がはっきりしてるし。
鈴音 そういうことを言ってるんじゃないの!
一樹 ピアノ講師も忙しいんだろう。明日はラーメンだし。
鈴音 パパに会うのは何ヶ月ぶりだろう…。ねえ、何を着ていったらいいかな。
一樹 オレは塩チャーシュー麺に、味タマと、もやしをトッピングした奴が好きだ! あと、ギョーザを忘れちゃいけないな。
鈴音 食べ物の話から離れなさいよ。
一樹 いや、ラーメン屋の話だし。
鈴音 ねえ、何を着ていったらいいかな。
一樹 デートじゃないんだから何でもいいだろ。
鈴音 何か買ってもらえるかな。
一樹 学校の体操着を着ていったらどうだ? こんな季節だし、そういう格好をして行ったら哀れんで、服を買ってくれるかもしれない。
鈴音 バーカ。だけど、楽しみ…。
暗転 雨音。だんだん激しくなってくる。
二場
民家のリビング。下手から登場した鈴音を追うように、一樹が登場。鈴音はぷりぷり怒っている。二人ともコートを着たまま。
鈴音 本当! 信じられない! こっちが雨の中待っているのに、メール一本でキャンセルなんて! あたしが今日まで、どんなに楽しみにしていたか! お母さんに、パパに会うのを許してもらうのに、どんなに嫌な顔をされたか! わかってるの、あの人!
一樹 お袋の許可を取るのは、本来は親父の仕事だけどな。
鈴音 パパの悪口を言わないで!
一樹 …すまん。
一樹、コートを脱いでハンガーにかけようとする。鈴音、一樹のコートをひったくるように取って、ハンガーにかける。
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