天使が降りてくる
天使が降りてくる
登場人物
絵里菜 保育実習生
絵里奈の母
恭輔 保育士
ユリエ タカシの姉 六歳児
タカシ ユリエの弟 三歳児
隊員
艦長
開幕
舞台中央にピンスポット。
スポットの中にベッド。絵里奈の母親が横たわっている。ベッドの側の椅子に絵里奈が座っている。高校の制服。
絵里奈の母「あんた…」
絵里奈「ママ!」
母 「パパは…?」
絵里奈、何も言うことができない。
母 「なんでいないのよ…。
なんでいないのよう!
顔を見せてよ。
声を聞かせてよ。
名前を呼んでよ。
さわってよ。
手を握ってよ。
髪をなでてよう。
キスしてよう。
抱きしめてよう!
抱きしめてよう!
抱きしめてよう!
抱きしめてよう!
もう会えないかもしれないんだよ。
なんであんたがここにいないのよう!」
スポットが消える。
ゴーッという水の音。だんだん大きくなる。
照明が舞台全体を照らす。
狭い物置の中。舞台中央に梯子。高い位置に明かり取りのガラス窓がある。
ユリエとタカシが毛布をかけ、客席に足を向けて仰向けに寝ている。
その周りを段ボールが床一面に置かれている(積み上げられてはいない)。
絵里菜が子供達の枕元に座って携帯電話を耳に当てている。ピンクのトレーナーにジーンズ。エプロンをしている。サンダルばき。
梯子の上。狭い足場がある。低いローター音。恭輔が黄色い「横断中」の旗を振って「おーい、ここだあ!」と何回も叫んでいる。黒のトレーナーにジーンズ。靴をはいている。
恭輔、梯子を降りてくる。
恭輔 「どうだ、つながったか?」
絵里菜「駄目です。110も118も119も…。かなり混線しているみたいです」
恭輔 「この二人のお母さんには?」
絵里菜「駄目です。お母さんが地震の後、津波が来るまでに迎えに来てくれれば…」
恭輔 「あんなに遠くから迎えに来てもらえば、かえってお母さんが危険だったかもしれない。それよりこの二人以外の子供たちを無事に親御さんに渡すことができたのをラッキーだったと考えろ」
絵里菜「あの…、118って何の番号ですか?」
恭輔 「ジャパン・コーストガード」
絵里菜「は?」
恭輔 「海上保安庁だよ。カタカナにするとなんかカッコイイだろ」
絵里菜「海上ですか…」
恭輔 「一階は完全に水に浸かってる。津波のせいで周りは海だ。どう考えてもここは海上だろ。残念だ。竿があれば釣りができたのに。高台に取り残されてるんじゃなくて島の上にいると思えばいい」
タカシ、上半身を起こす。
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