もはや主人公ではない
「もはや主人公ではない」
(登場人物)
アガサ(40) 女性
元・大怪盗。世界中に散った父親の遺産を、三人姉妹で集めていた。
公民館の事務。
イノウエ(24) 女性
元・高校生作家。代表作は「高校生探偵リリカルほのか」シリーズ。
公民館の臨時職員
ウキシマ(32)男性
元・薄幸の美少女、の恋人。現在、北東方で二児の父。公民館の事務。
エノモト(24)男性
元・天才中学校球児。口癖は「ボールは友人だ」。公民館の臨時職員。
魔法使い 女性、魔法使い。
太田秀明(28) 男性、主人公らしくない男。公民館の事務。
鳴海リミコ(26) 女性、アカペラサークルの代表。太田が好き。
(場所)
県庁所在地。そこそこ大きな地区公民館。
開演。魔法使いが立っている。
魔法使い こんにちはー、魔法使いでーす。どうもどうも。形(ナリ)はこんなんですけど魔法使いです。ご不満ですか。そう言われたってね。魔法使いだからって、長いローブを引きずってなきゃいけないわけでも、黒い猫とか箒とかそういう「魔法使いです!」ってアイコンで成分表示する決まりはないわけです。だけど分かりにくいので(帽子を取り出す)帽子! これだけ被りますね。私は魔法使い。好きな食べ物は「納豆」。よく覚えていてくださいね、あとでまた聞きますからね。それじゃあ、本編に行ってみましょう。
舞台は……
明転
魔法使い 滝中央公民館の事務室。ここには、たまたま。本当にたまたま。かつての「主人公」たちが集まっていたのでした……!
音楽が鳴り始める。
魔法使い それでは、タイトルコール!(はける)
全員が足音高く行進してくる。上演する団体の名称を叫ぶこと。
普段の1.5倍速でセリフを回すこと。
(全員=アガサ、イノウエ、ウキシマ、エノモトである)
全員 劇団〇〇○第●回演劇公演「もはや主人公ではない」!
全員 もはや主人公ではない!
全員 もはや主人公ではない!
全員 だが、いまだに「主人公になりたい」!
アガサ 私の名前はアガサ。アガサメリ。40歳。かつては盗賊として、亡き父の散逸した財宝を集めるため、妹たちと世界中の金持ちの屋敷を狙って飛び回っていた。私を追ってきた敏腕刑事と激闘の末に恋に落ち、なんども悪党の罠にかけられ、命の危機をかいくぐった。マリ、メリ、モリの三姉妹。
イノウエ 「今宵、黒猫があなたのハートをいただきます」
アガサ 黒猫盗賊団と聞けば三歳児だって知っていたものよ。大金持ち
になったかって? なったわよ。莫大な財宝! 莫大な富! そして、莫大な相続税! 骨肉相食む争いがおこったわ。
ウキシマ 「キーッ、お姉ちゃんの業突く張り!」
エノモト 「なんですって、モリのけちんぼ!」
アガサ 目標が無くなったらチームはだめね。兄弟はもっとだめ。私たちは一人一人では税金を払えなかった。私は全てを手放し、元・敏腕刑事の夫と年老いた母と静かに暮らしています。
全員 もはや主人公ではない!
1/20
面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種
Windows
Macintosh
E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。