包丁女の宝物(旧題 はこ)
『はこ』 三訂版
雪子(ゆきこ) 21歳。ストーカー。
神崎 剛(たけし) 高校三年生。
神崎 碧(あおい) 高校一年生。タケシの妹。
壺のセールスマン 男性。20代
夏子(なつこ) 25歳。雪子の姉。
婦人警官 二人
刑事
幕内から声が聞こえてくる。幕は下りたまま。
剛 「おい見ろ! 人が倒れてる!」
碧 「うん…、倒れてるね」
足音。
剛 「大丈夫ですか。…大丈夫ですか! (バカでかい声)…大丈夫ですかあ! だめだ意識がない! 碧(あおい)! AED持って来い!」
碧 「そんなものどこから…」
剛 「じゃあ、救急車を呼べ! 心臓マッサージやるぞ!」
碧 「…もしもし、消防ですか?」
剛 「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十…。二、二、三、四、五、六、七、八、九、十…。三、二、三、四、五、六、七、八、九、十…。四、二、三、四、五、六、七、八、九、十…」
開幕
一場 公園。
剛と碧板付き。剛は原則として下手側を向いていて、碧は原則として剛に背をむけている。二人が会話しているのを、物陰から雪子が写真を撮り続ける。剛、缶コーヒーの空き缶を手にしている。
碧 「アニキ…、言い訳は?」
剛 「しょうがないだろう。人が倒れたんだから…」
剛、空き缶をベンチの背もたれの上に置く。
碧 「だからって、なんであんたが救急車にまで付き添わなきゃいけないの! あのあとすぐに行ってれば時間に間に合ったじゃない! お人よしもいい加減にしなさいよ!」
剛 「いや、あの人の身内がそばにいたわけじゃないし」
雪子、空き缶を手にしようと何度も挑戦するが失敗する。
碧 「昨日の映画はねぇ、友だちのお父さんのコネで特別に日本未発表の作品の試写会に呼んでもらったんだよ!」
剛 「いや、わかってるって」
碧 「わかってない。まったくわかってない! あんたまさか、妹と恋愛映画を観るのがいやだとか、そんな気持ち悪いこと考えてるんじゃないでしょうね」
剛 「いや、そういうこだわりはないよ」
碧 「…あたしだってねえ、あんたとそんな映画なんか見たくなかったよ気持ち悪い!」
剛 「そうか…。それはともかく、埋め合わせをするから…」
碧 「埋められるわけないでしょ! あたしは明日カオリのお父さんに会わなきゃならないんだよ! 感想聞かれたらなんて言えばいいの!」
剛 「そっちはなんとかしてくれ!」
碧 「なんとかするって、どうすればいいの!」
剛 「いや、悪かった。すみません。ごめんなさい! 勘弁してくれえ!」
剛、上手に退場。
碧 「逃げられないよ。一緒に住んでるんだから!」
碧、剛を追いかける。雪子、剛が忘れて行った空き缶を取ろうとする。碧、立ち止まって下手を向く。雪子、隠れる。碧、ベンチまでもどる。
碧 「まったく、エチケットがなってないんだから…」
碧、剛が忘れた空き缶を両手で抱えて上手に退場する。雪子、物陰から出て上手をきつくにらみつける。スカートのポケットからスタンガンを取り出す。バチバチッという音。雪子、上手に走って退場。
暗転。
二場 雪子のマンション
雪子、剛板付き。
壁いちめんに剛の写真が所せましと貼られている。
壁に一か所だけ、白いハンカチが貼られている箇所がある。
天井からロープが斜めに張られていてその端が上手側のテーブルの脚に結ばれている。
ソファーに剛が寝かされている。雪子が寝ている剛の顔をじっと見ている。
剛 「うーん…」
雪子 「うふ。目が覚めた?」
剛 「うわぁぁっ!」
剛、跳ね起きる。
剛 「ここは…」
雪子 「わたしの部屋」
剛 「ああ。思い出したぞ。外を歩いていたらいきなり電気ショックみたいなものを感じて気絶したんだ。ありがとうございます。あなたが助けてくれたんですか?」
雪子 「そうよ」
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