ダイアモンド・ブリザード
『ダイアモンド・ブリザード』
登場人物
ユリエ 大学三年 動物愛護サークルの部員 女子
アカリ 大学三年 動物愛護サークルの部員 女子
キョウカ 大学三年 動物愛護サークルの部員 女子
リュウジ 大学三年 動物愛護サークルの部員 男子
シンイチ 大学三年 動物愛護サークルの部員 男子
テツヤ 大学三年 動物愛護サークルの部員 男子
アツシ 大学三年 動物愛護サークルの部員 男子
効果音 激しい風雪の音
緞帳が上がる。
中央にテーブル。シンイチとアツシが座ってコーヒーを飲んでいる。
アツシ 「ひどい雪と風だな…」
シンイチ「自然の猛威を感じるよ…」
アツシ、立ち上がる。
アツシ 「よしっ!」
シンイチ「何だ?」
アツシ 「自然の猛威を感じるんだよ!」
アツシ、上手に向かって歩く。立ち止まってパントマイムで扉を開ける。
一層激しい風雪の音。
アツシ、無言で閉める。
シンイチ「何をやってるんだ…」
アツシ、テーブルまで歩いてきて座る。
アツシ 「自然の猛威を感じてた」
シンイチ「これじゃあ一歩も外に出られない。まあ…、自然の前では謙虚じゃなきゃいけないっていうことだな」
テツオ、下手から登場。
テツヤ 「おれにもコーヒーくれよ」
シンイチ「どこかの評論家が、夜の明るさこそがその国の文明の指標を表しているとか言っていたが、日本の夜の明るさは異常だ」
テツヤ 「おれにもコーヒーくれよ…」
シンイチ 「衛星写真で見ると、夜の日本列島の形がくっきりと浮かび上がっている。人間が自然の一部である以上、こんな風に自然を痛めつけていて、自然に復讐されないはずがない。誰かが『地球にやさしく』とか言っていたけど、『地球以外に住む場所のない人間が、何を偉そうに』としかおれには思えないね」
テツオ 「おれにもコーヒー…」
アツシ 「すまんなテツヤ、シンイチが今演説の最中で…」
シンイチ「アツシ、甘やかすな。おれたちは自然を肌で感じるために真夏にしか使われないペンションに、この季節にやってきた。管理人もいないのにな。これは遊びじゃない。清涼学院大、動物愛護サークルの活動なんだ。(テツヤに)コーヒーくらい自分で淹れろ」
テツヤ、むっとしながら自分でカップにコーヒーを注ぐ。
アツシ 「そんな言い方をしなくてもいいだろう。あの時はこいつの機転がなければどうにもならなかった」
シンイチ「あの時か…」
アツシ 「ようやく保護された捨て犬だった。名前さえついていなかった」
シンイチ「あとでキョウカがラーフラって名前つけたよな」
アツシ 「お釈迦様の息子の名前だそうだ。『障害』っていう意味だそうだが、捨てた飼い主にとって邪魔ものだったとしても、ラフラのように強く生きろって意味らしい」
シンイチ「ラーちゃんって呼ばれてたが」
アツシ 「ひどいトラウマを受けていた。それがやっと外に出ることができて、道路を渡ろうとしてた。勿論横断歩道も何もないところだったけど、もしここで渡らせなかったら、ラーフラは二度と人間に心を開かないだろう。おれたちはただ車道に出て両手を広げるしかなかった」
アツシ、立ち上がって両手を広げる。
シンイチ「アカリとユリエが、声を涸らして『お願いします!』『この子は捨て犬だったんです!』『この子がちゃんと育つかどうかの瀬戸際なんです!』と叫んでも、ただブーブー、クラクションを鳴らされるだけだった!」
アツシ 「ついには車の中から出てきて、おまえの胸倉をつかんでこんなことを言ったオヤジがいた。『オマエ死にたいのか…』」
アツシ、シンイチの胸倉をつかむ。
アツシ 「するとテツヤは、何も言わずに記録用のビデオカメラをそのオヤジに向けた」
テツヤ、面倒くさそうにカップを置き、アツシの顔のぎりぎり近くまで寄り、手だけでアツシを撮っている振りをする。アツシ、シンイチの襟を離す。
シンイチ「自分の周りしか見ていない奴はな、四十過ぎても五十過ぎてもガキなんだよ。自分が今していることが人類にとってどういう意味を持つか、まるでわかってない」
アツシ 「そのオヤジは真っ青な顔をして車にもどっていった。テツヤはご丁寧にその様子まで撮影し、車のナンバーまで撮った」
アツシ、テーブルまでもどってきて座る。
アツシ 「おれたちの活動っていうのは人にウザがられることが多い。だけどおまえの言う通り、おれたちは地球にやさしくできるような力はない。だからおれは、このサークルのメンバーだけにはやさしくありたいんだよ」
テツヤ 「(カップを取り、立ったままコーヒーを飲む)だけどあのとき、キョウカとリュウジはいなかったな」
アツシ 「何だか所用とかで…」
テツヤ 「どうせデートでもしてたんだろう」
シンイチ「せっかくいい話でまとめようとしてるんだ。台無しにするのはやめろ」
テツヤ 「もっともそれからすぐ別れたらしい」
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