お届け物です。
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登場人物
 瑞月美奈 瑞月家の次女。二十六歳。在宅校正士とかやってそう
 瑞月真奈 瑞月家の長女。二十八歳。アパレルメーカーとかに勤めてそう
 忍成廉  郵便配達員。二十六歳。愛に溢れている
 藤本卓馬 新聞配達員(アルバイト)。学生。幸せに溢れている?


第一場

 舞台は瑞月家の窓辺とその壁が面した道端(窓付きパネルの手前と奥のイメージ)、家の窓辺(パネル奥)で本を読んでいる瑞月美奈。そこへ大きなカバンを肩に掛けた忍成廉が自転車を押しながらやって来る。家の前(パネル前)で自転車を停め、窓をたたく。表にはベンチとか置いておくとよい。

廉 郵便です
美奈 (立ち上がりながら)あ、はい
廉 僕からの愛をお届けに上がりました

 窓を開けた美奈、すぐに閉めようとする。

廉 ちょっとちょっと
美奈 現在、窓からの配達物は受け付けておりません
廉 いや、今受け取ろうとしてくれたでしょ
美奈 それはつい癖で……郵便受けの修理は終わりました。忍成さんの愛も表に突っ込んどいてください
廉 え、真奈さん受け取ってくれるんですか?
美奈 それは姉に聞いて下さい
廉 じゃあ真奈さんを――
美奈 姉は留守です

 間。

廉 それを先に言って下さいよ
美奈 郵便なんだから本人が直接受け取らなくてもいいでしょう。ていうか、本当に郵便なんですか? 最近あなた用もないのに――
廉 ああはい、こちらになります

 廉はカバンからいくつかの郵便物を取り出す。受け取った美奈はその中の一通を見て手を止める。

廉 それ、お父様からの手紙ですか?
美奈 廉ちゃんに関係ないでしょう
廉 何を言ってるんですか。そうですねえ、あと一年もすれば「お義父様」ですよ! 真奈さんは僕のお嫁さんになるんだ。結婚式は来年の六月あたりかな? やっぱり女性は憧れるものですよね? ジューンブライド!
美奈 いや、私はもっと天候のいい時期に……って違う! 寝言は寝てから言いなさい
廉 またまた。ていうか、さっき何気に廉ちゃんって呼びましたね? 妹の懐柔に成功っと(ガッツポーズ)
美奈 ハッ
廉 ああ! 僕には素敵なお嫁さんだけじゃなくて、可愛くてしっかり者の妹もできるんだ。幸せ者だなあ
美奈 こんな義兄ができたら恥ずかしさで死ねる
廉 それは褒めすぎですよ
美奈 褒めてない!

 美奈はいまだ妄想の世界の廉を放って手紙を片付けに引っ込む。

廉 (唐突に膝を付いて、あるいはもっとエキセントリックに)お義父さん、真奈さんを僕に下さい! 不肖、忍成廉、一生かけて真奈さんを大切にし、幸せにしたいと思っております。何を隠そう僕は生まれてこのかたこれほどまでに人を愛したにのは初めてなのです。あれはそう、僕がこの地区の配達担当を任されたばかりの頃でした。郵便物の宛名に書かれた住所を目指して右往左往する僕の前に天使が舞い降りました。言わずもがな、真奈さんです。彼女は僕から直接手紙を受け取ると「あれ、もしかして新人くん?」と声を掛けてくださいました。「は、はい」上ずった声を返すと「頑張ってね」と美しく、まばゆいほどの……いや、神々しいまでの微笑みを僕に与えてくれたのです。見知らぬ土地で迷子同然だった僕はもう天にも昇る心地でそれを見つめ――

 美奈が窓辺に置き去りだった本を取りに来て、

美奈 うわ、まだいたんですか?
廉 (我に返って)え?
美奈 忍成さん仕事中でしょ、配達はいいんですか?
廉 あ、大丈夫です。僕いつも全部回ってからここの配達に来てるんで(空の郵便鞄をひっくり返してみせる)ほら
美奈 恐ろしく非効率な配達ルートだ
廉 僕も社会人ですからね、真奈さんに会う前に自分の仕事くらい終わらせて
美奈 会えてないですけど
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