沈没作戦
『沈没作戦』

みつむら けいすけ

【登場人物】
 
 大きな男
 小さな女


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     一軒家の屋上。洪水によって、すぐそこまで水が迫ってきている。
     大きな男がレンガを積んでいる。脇にはセメントが入ったバケツがあり、男は休むことなくレンガゴテでセメントをすくって塗っては、レンガを積んでいく。
     誰かが水から上がる音。小さな女がやってくる。女は大きなカバンを持っている。
     女は立ち止まる。髪を絞り、靴の中に入った水を出し、適当に服を整える。

女  ごめんください。
男  はい。
女  お時間少々よろしいでしょうか。
男  何ですか?
女  すみません、あの…。
男  申し訳ありません。手を休めるわけにはいきませんので。
女  え?
男  気を抜くと、すぐに水の底です。積まなきゃならないんです。
女  なるほど。お忙しいところ、すみません。
男  で、何ですか?
女  実は、乗ってきた船が止まってしまいまして。
男  それはお気の毒に。ここまで泳いで来られたんですか?
女  はい。泳ぎは得意なもので。
男  そうですか。それはそれはご苦労様でした。
女  一つ、お願いがあるんですが。
男  はい。
女  実は船の燃料が必要でして。
男  すみません、灯油やガソリンは…。
女  いや、そうではなくて。
男  何です?
女  セメントとレンガをいただけたらと。
男  セメントとレンガが燃料になるんですか?
女  はい。
男  …それはちょっと。差し上げるわけには。
女  勿論、タダでとは言いません。
男  今、セメントとレンガ以上に必要なものはありません。
女  実は、先ほど申し上げた船というのが商船でして。
男  商船? じゃああなた、商人ですか。
女  そうです。弊社の商品の一部をお持ちしました。もし気に入られたものがございましたら、三つだけタダで差し上げます。
男  どれでもくれるの?
女  はい。
男  とはいえ、そんなこと言ってもねぇ。
女  こちらはいかがですか。(水鉄砲のようなものを出す)
男  ごめんね。今、そちらを向けないから。
女  そうでしたね。では、口頭でご説明致します。
男  すみませんね。
女  これは浮力発生装置です。
男  何それ。
女  弊社が独自に開発したもので、浮かせたいものに向けて発射することで、一定時間、一定の浮力を発生させることができます。
男  ウソだぁ。
女  本当です。
男  都会には便利な物があるんだなぁ。でもそんな物いらないや。
女  なぜです?
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