どくろ
1A
時代は大正。とある警察署の取調室。
薄暗い部屋に机と椅子が二つ。
誰もいない。
が、やがてそこに着物を着た男が通される。
男はとある村の庄屋である。
男は一人の刑事に連れてこられる。従ってはいるが、不機嫌な様子である。
刑事2「どうぞ、こちらへ」
男、椅子に座る。
無言が続く。
刑事2「本日は、あのような大火事の直後に、お疲れのところを申し訳ありません。ですが、二、三、聞きたいことがございまして」
男、何も答えない。
刑事2「……今、担当の者がまいりますので、もうしばらく」
男、何も答えない。
二人、無言で待つ。静寂。
刑事がもう一人、入ってくる。
刑事「いやあ、遅くなりました。……おや、盛り上がっているところを、失礼いたしました」
先に来た刑事、駆け寄る。
刑事「待たせたね。すまなかった」
2「こんなことをしても無駄だ」
刑事「なぜ」
2「証拠が足りない。これじゃ起訴できない」
刑事「何か話してくれるかもしれないだろう?」
2「話などするものか。任意同行だ。都合が悪くなったらすぐに逃げられる」
刑事「そんなことにはならんさ」
2「どうしてそう言える」
刑事「取れたからさ」
刑事、紙切れを一枚、見せびらかす。
2「……上が認めたのか?」
刑事「なあに、僕が全責任を取ると言えばあっさりだったよ。上も本当はわかってるんだね」
2「君……何も出なければ、クビじゃすまないんだぞ」
刑事「出るよ」
2「なぜそう言える?」
刑事「クロなんだろ?」
2「だから証拠が」
刑事「証拠なんてどうだっていい。クロなんだろ? 間違いないんだろ?」
2、目を閉じて逡巡する。
2「クロだ。間違いなく、やっている」
刑事「……生真面目な君が、一年かけて綿密に調査して、クロだと確信した。僕に言わせればそれが何よりの証拠さ。大船に乗ったつもりでいたまえ。……さ、客人がお待ちだ」
2、言いたいこと押し殺して、部屋を出る。
刑事、男に目を向ける。
刑事「すみません。何かと忙しかったもので。お待たせしてしまったようですね」
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