ケロヨン
ケロヨン




朗読者




開演前、観客に混じって男と女が客席に座って、流行の音楽、ファッション、愛とは、恋とは、若い男女が交わすなんてない会話をしている。
開演時間、客電が暗くなり、やがて客席は静かになっていくにつれて、二人の会話が浮かび上がっていくだろう。

朗読者が一人、本を持って現れる。

朗読者 とある時代のとある場所、そこに井戸があった。誰からも忘れ去られたその場所に、彼は住んでいた。ケロヨン。

客席の二人の会話が止まる。

朗読者 ケロヨン、それが彼の名前だ。コドクだ。

暗転。
中央スポット。

朗読者 じめじめと暗い井戸の中は、一年に一度だけ、がらりとその様相を変える。もういかほどこの場所にいるのかは忘れたが、この日だけは、すべてを忘れて、ただ、日光に体をさらした。闇になれきった体に日光はヒリヒリとしみたが、なんの刺激もない井戸の底では、それが楽しかった。ケロヨンはその日を

男、登場。

男 太陽の日
朗読者 と呼んだ。
男 ケロヨン。
朗読者 それが彼の名前、蟲毒(こどく)だ。

女、登場。

朗読者 もう、幾度か数えることすら忘れた太陽の日に、女が井戸に落ちてきた。
女 誰? 
朗読者 女は言った。
男 ケロヨン。
朗読者 と彼は答えた。女からは、ひどくすえたにおいがした。生き物が死ぬ寸前に出すにおいだ。

女 ここはどこ?
男 井戸の底。
女 井戸?
男 そう。
女 そうか。私は落ちたのか。
男 そう。
女 いたたたた。
男 ……。
女 とおもったけど、そんなに痛くない。なんでだろ?
男 さあ?
女 あなた、誰?
男 ケロヨン。
女 ケロヨン?
朗読者 ケロヨン。そう答えた。

暗転。
暗転中、二人の会話が聞こえてくる。
たとえば、神様について、二人は話しているようだ。

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