日々にあくせく、白にゆうゆう
【登場人物】
・明日香
受験生を間近に控えたある日、何故か幽霊が見えるようになった。楽しさ至上主義者で、いつも明るく楽しく過ごしている……と周りに思われたい子。ゲームは割と何でも好き。自信低め。
・幽霊(と思われる謎の存在)
高校二年生の女子高生の部屋に憑りついた地縛霊と思われる何か。その気になれば宙に浮いたり壁をすり抜けたりもできる。何も書かれていない本を愛読書と称し持ち歩いている。常に迂遠な言い回しや矛盾的な発言を好み、何が言いたいのか大体伝わらない。ゲームしてるときはテンションが迷子。
―― 幕 ――
明日香、声のみ
明日香(以下、明)「話を、しましょうか。私のとっておきの、誰にも言ったことのない秘密の話。……ええ、そうね。確かに変かもしれないわね。どうして今、あなたにこんな話をするのか、今まで誰にも話したことなんて無かったのに。でもね、何だかあなたには話しておきたくなったの。聞いてくれる?」
明「あれは、私が高校三年生になる、少し前……。とってもつまらなくて、ありきたりで、最高に面白くて、少しだけ不思議な、私の、日常だった話」
明転。明日香の部屋。幽霊が定位置(なんか棚の上とか、どこでも良い。)で本を読んでいる。
明日香登場
明「みな讃えよー。部屋主が無事帰還したぞー」
幽霊(以下、幽)「おかえり。学校お疲れさま」
明「いやああああ本当にもう疲れたーーー。何なのどいつもこいつも、もうすぐ3年だ受験だ就職だ進路だってさあああああ、もう耳にタコが出来るわ。あ、出来たわこれ。タコツボ出来てるわコレぇ!!」
幽「安心して明日香、明日香の耳はいつも通りの耳だから」
明「分かってるよそんなこと。物のたとえでしょ?ヌルヌルのタコですら耳栓に使いたくなるくらい小言はうるさいよねっていう」
幽「耳にたこが出来るって言うのは、同じ話を何度も聞かされてうんざりすることのたとえ。ちなみにこの「たこ」は海に居る軟体動物のタコではなくて、繰り返しの刺激を受けて皮膚が角質化し厚く硬くなっちゃう方の胼胝(たこ)だよ」
明「あーーーうるさーーーい。また私のことバカにしてー。いいじゃない別に結果的に使い方間違ってないし」
幽「馬鹿にしたわけじゃないさ。ただ、間違えて覚えているなら訂正した方がいいかと思って。明日香のためにね」
明「はいはいその言い訳もいい加減耳タコです〜。あんたが現れてから1週間ず〜っとそんな感じで私のことバカにしてます〜。少なくとも私はそう感じ非常に心を痛めているので謝って下さいと被害者のA氏は語る」
幽「それは誤解を与えてしまって大変申し訳ない。でも、明日香の解釈も斬新で面白かったよ」
明「ソレハドウモー。あーあ、もう一週間か〜、一週間……、そうだよ、もう一週間も経ってるよ!?」
幽「一週間がどうしたというんだい?」
明「あんたがここに居座り始めてもう一週間も経ってるって言ってるの!!あんたさぁ、いつまでいる気なの?」
幽「さあ?特に決めてないけど……。別にそんなことどうでもいいじゃない。明日香だって、もうかなり私と打ち解けてきているようだし」
明「打ち解けているんじゃありませんー。慣れちゃっただけですー。こんな状況にすら慣れたのは流石に自分でも引いてますー」
幽「引く必要はないよ?慣れは人間が現状に適応し生きていくためのとても重要なシステムなのだから」
明「いやいや、適応しちゃいかんでしょ、神聖なMy Roomに地縛霊が憑りついてる状況とか」
幽「だから何度も言うけれど、私は地縛霊じゃないってば」
明「浮遊霊?」
幽「できれば幽霊から離れてほしいのだけど」
明「じゃあ何なの?」
幽「私は何かではあるだろうけれど、同時にそれ以上の何でもない。ただ君の目の前にいて君と話をしている、ただそれだけの存在。そんなところかな」
明「だからそれ地縛霊じゃない」
幽「うーん、地縛霊とはまた違うのだけど」
明「でさぁ幽霊」
幽「だからその呼び方も変えて頂けるとありがたいのだけど」
明「『のだけどのだけど』うるさいなぁ。そのキザな喋り方もやめて頂きたいノダケドォ」
幽「こればかりは癖だから、何ともならないなぁ」
明「あーもう最悪だわー。私の貴重な青春ほんと丸つぶれだわー。ずっと良く分かんない本読んでてよく分かんない喋り方でよく分かんないこと言ってるよく分かんない幽霊によく分かんないけど部屋に居座られてそんでいつ帰るかもよく分かんないとか、よく分かんなさでギネスブック載るわー」
幽「何を言っているんだい明日香。世の中には良く分からないことなんて往々にして存在するものだよ。私程度の存在でギネスブックに載ろうなんて100万年早いよ」
明「いやあんたの存在は大概よく分かんないと思うんだけど」
幽「時に明日香、私の愛読書を『よく分かんない』と言ったことに関しては訂正願うね」
明「嫌よ。それが一番訳分かんないし」
幽「何故だい?本とは人々の想いの託された一つの結晶だよ?どんな本であれ、それを訳分からないなどと言うものではないさ。大事なのは分かろうとする努力と、結晶を結晶足らしめんとする想像力だよ」
明「だって、努力も想像力も何も、その本何も書かれていないじゃない」
幽「何も書かれていないという事と何も無い事は同義ではないよ。この本は僕の本で、僕のために存在する。たとえ白紙のページばかりであっても、この白紙には白紙だからこその意味があり物語がある」
明「もうそれ本って言うかただのノートだし」
幽「本とノートの定義の違いとは如何に?確かに、この本は未完成かもしれない。それでも、私にとってこれは、誰かの感情や意思が綴られた一つの物語で、時に来た道を示し、時に行く先を照らすものに違いないよ。誰か一人でもそう断定できるなら、きっとそれはもう本と呼んで良いと思うのだが、どうだろう?」
明「え?ごめん聞いてなかったから分かんない(いい笑顔)」
幽「本とノートにおける定義の……」
明「いやいや良いよ言い直さなくて。ってか言い直すな何回聞いても意味わかんないから」
幽「そう?分かっていただけなくて残念だなぁ」
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