花の環を手向けに (30分)
男、手紙を書くが気に入らずに丸めて捨てる。何度か繰り返す。
ようやく書いた手紙を女の机の上に置く。
女、手紙に気付いて読み上げる。
女 『突然失礼します。貴方に伝えたい事があって手紙を書きます。貴方は放課後いつも中庭
で花の世話をしていますね。それに気付いてから、自分は用もないのに中庭を通る様に
なりました。しばらくして花が咲いた時、あなたの頑張りが報われた様で自分も嬉しく
なりました。このまま夏休みに入って貴方の姿が見られなくなるのは寂しいです。もし
良ければ直接会って話してみたいです。返事を待っています』
女、返事を書いて去る。
男、返事に目を通してガッツポーズ。
■■■
男と女。
女 『達也です。緊張しています。僕に会って驚きませんでしたか? これからは、中庭でこ
の日記を交換する事になりそうですね』
男 『ふみかです。交換日記は私も初めてです。無理をせずに続けていきましょう。夏休みの
間、私が来ないと思って代わりに花に水をあげてくれていましたよね? 私は家が近い
から夏休みの間も来るつもりで、いつもその姿を見ていました』
女 『達也です。まさか気付いていたとは。それなら余計に驚きましたよね。僕みたいな不良
が花に水をやる姿なんて…』
男 『ふみかです。達也さんは有名人ですからね。入学式にバイクで来て全校生徒の目の前で
先生達とケンカした人は他にいません。最初は怖い人かと思っていたけど、花に毎日丁
寧に水をあげているのを見て安心しました』
女 『達也です。それなら良かった。自分の家の庭で、姉が花をたくさん育てています』
男 『ふみかです。私は一人っ子だから兄弟に憧れます。お姉さんが育てている花は何でしょ
う? 今度見に行っても良いですか? お姉さんにも会いたいです』
男、動揺。
女 『達也です。僕の家に来るのはお勧め出来ません。狭いし汚いし変な匂いがします。それ
に姉がからかうに決まっています。姉はそういう人間です。ふみかさんに何か言われた
ら我慢出来ません』
男 『ふみかです。こっちこそ急な我がままごめんなさい。いつかは達也さんのお姉さんにも
会ってみたいです。何の花があるか、さり気なく聞いてみてくださいね』
■■■
女 『達也です。ちょっと質問があります。庭に咲いたクローバーの花に白と赤があります。
前にアジサイの話でふみかさんから聞いた様に、これも土の成分によって色が変わ
るのでしょうか?』
男 『ふみかです。シロツメクサとアカツメクサがあって、別の種類です。見た目もよく似て
いて、赤いシロツメクサと白いアカツメクサもあるという紛らわしさっぷりです。地
面の近くに生えていて、葉っぱとは別に長く伸びた茎に花が付いているのがシロツ
メクサ。花のすぐ下に葉っぱが付いているのがアカツメクサです』
女 『達也です。庭にあったものを添えます。これは白いシロツメクサで合っていますか?』
男 『ふみかです。正解です。四葉の葉っぱもありがとうございます。探してくれたんです
ね。四葉のクローバーの花言葉は「幸運」「私のものになって」です』
女 『達也です。花言葉というものがあるのは知っていましたが、葉っぱにもあるのですね。
四葉は縁起がいい気がして添えましたが、悪い意味でなくて良かった』
男 『ふみかです。実はシロツメクサ全体の花言葉だと「幸運」「私を思って」「約束」「復
讐」になります』
女 『達也です。何故その流れで恨めしいものが入ってしまっているのでしょうか』
男 『ふみかです。昔の人は花に色んな意味を込めたみたいですね。今度は私が見付けて達
也さんに贈りますね』
女 『達也です。まさか冠を作って贈られるとは思いませんでした。庭のシロツメクサで作
って返したいのですが、手先の器用さには自信がありません』
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