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ナツ・ノ・ヤクソク

　登場人物
　　直子（なおこ）
　　聡子（さとこ）
　　命（みこと）
　　違（たがえ）
　　務（つかさ）
　　

01
　　幕が開く。
　　下手側にエリア。直子が立っている。

直子　午後三時三〇分。三時のおやつが終わるころ。夏休みの子どもたちにとっては、六時の有線放送で、早くおうちに帰りましょうって言われるまで、冒険の時間はたっぷり残っている。なんと言っても、やりたいことはたくさんあるのに、夏休みはとっても短い。だから毎日が命がけ、絶対楽しい一日にしないと一日まるまる損した気分になってしまう。だからわたしは、いつの夏休みも必ず聡子と一緒に遊ぶ。聡子との待ち合わせは、午後三時三〇分、橋のたもとのお地蔵さんの前。五年生のときから、そう決めてある。わたしはきっかり五分前に来る。身体のちょっと弱い聡子を、暑いところに待たせておくわけにはいかないから。聡子はというと、きっかり五分遅れて来る。だからわたしは、いつも一〇分間、聡子を待っている。あの、最後の、ミサイルが青空を切り裂いてはしった日も、わたしは聡子を待っていた。

02
　　中央にエリア。
　　上手から、聡子が歩いてくる。

聡子　（幼い声で）こんにちは。
直子　（幼い声で）あ、聡ちゃん。
聡子　こんにちは、直ちゃん。
直子　遅かったね。待ってたんだよ。
聡子　そう？……うん、ちょっと遅くなっちゃった。
直子　具合、悪かったの？
聡子　そうじゃないけど。
直子　行くのやめる？
聡子　ううん、行くよ、大丈夫だよ。
直子　麦茶、飲んでく？
聡子　うん……いらない。
直子　ジュースの方がいい？
聡子　いいよ、いらない。
直子　そう？
聡子　時間、ないし。
直子　大丈夫だよ、まだ三時半だよ？
聡子　でも、帰り遅くなったら、花火見につれてってもらえないんだもん。
直子　うちだってそうだよ。
聡子　春日橋の下まで行くんでしょう？
直子　屋台の人たち、来てるよね。
聡子　帰ってこられる？
直子　万年橋わたって土手をおりて、うーん、大丈夫でしょう、有線の音楽が入るまでには帰ってこられるよ。
聡子　うん……
直子　わたしだって、花火見に行きたいもん。ちゃんと帰ってくるってば。
聡子　うん。
直子　急ご。
聡子　うん。

　　直子、走って上手に去る。ついて行こうとして、聡子は息が切れ、立ち止まる。
03
　　上手側にエリア。ふらりと務が現れる。

務　　あ、こんにちは。
聡子　（悲鳴のように）え？
務　　こんにちは。
聡子　あ、あ。こんにちは。
務　　ふうん。
聡子　なんですか？
務　　見えるんだ、ぼくのこと。
聡子　え？　なんですか？
務　　ぼくのこと、わかります？

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