pale blue

  登場人物: A(P2、秋、冬)
        B(冬、秋、P2)
  AとBは、場面によってモードがかわります。その都度、「A(P2)」とか「B(秋)」のように示してあります。

  幕が開く。舞台は薄暗い。
  立っている二人のシルエット。声が聞こえ始める。

A・B  午前三時の星は、夜のなかで一番明るい。
頭上にきらめく幾千幾万もの星の光は、
放たれてからすでに何千年も経っている。
圧倒的なほどの悠久の時間の前で、ひとは何も恥じらうものがない。
だからぼくは夜中に目を開く。
星空の見える四角い窓の小さな部屋は、
沈黙という宇宙に浮かぶ宇宙船のようだ。
それはこの世でただひとつ、
心やすらぐ揺りかごの空間。
けれどやがて、
東の空から少しずつ優しい夜は追いやられてゆく。
容赦なく、確実に、
薄青の光は天空の子午線をまたいで近づいてくる。
路地裏の野良犬のように、ぼくは居場所を見失う。
何もかもが残酷な明るみに洗われてゆくのを、
ぼくは息を殺し茫然と、見つめている。

  上手側にスポット。

A(P2)  記録。九月二十九日。太陽系までのワープが終了した。地球まで、残すワープはあと一回。その前にここで半日ほど休憩する。何しろ三年半も飛んできた宇宙船だ、エンジンだって相当くたびれている。連続してワープなんかしたら、船ごとぶっとんでしまうだろう。
オリオン座方面調査船、ペガサスMk2、ミッション・ナンバー十六。十六回目の調査ともなれば、新しい星を発見するなんてこともまずなく、ただただつまらない数字のデータを集めるだけの任務。それを毎日繰り返し繰り返しまるで煮詰まったスープのように頭の中がこてこてになった三年半。ようやくそれが、あと一回のワープで終わる。それまでのこの、半日の休憩時間が、たまらなく長い。
で、その、特別だけれどめちゃくちゃ退屈な一日は……

  暗闇の中で目覚ましのベルが鳴り始める。

A  (軽くため息)いつもの通り、気に障るこの音で始まる。

  全体が明るくなる。
  寝台と椅子。
  寝ているB。目覚ましの音でのたうちまわる。

B(冬)  うおー、うるさいー、止めてくれー、もうちょっと寝かせろー、いじわるー、けちー、ひとごろしー……
A  これだ。なんであんたはそう毎日元気良く寝ぼけるのよっ。
B  うるさいぞー、なんか恨みでもあるんかー、こんちくしょー、あとちょっとー、いいじゃんか少しくらいー……
A  こら冬っ! 起きなさいっ!

  目覚ましの音、止まる。
  むく、と冬が起きあがる。

B  んあ?
A  なんだそれは。起きてまず一発目の一言がそれか。
B  うー。
A  その目はなに。
B  もっと寝かせて。
A  だめ。朝なんだから。
B  まだ暗いじゃない。
A  宇宙なんだから当然でしょ。
B  暗いから夜だ。
A  朝だ。人間はねぇ、朝になったら起きるの。そういうことになってんの。朝、寝てていいのは、夜のあいだに一生懸命働いてくれてた人か、病人か、さもなきゃ遊びほうけてるぐうたらな大学生だけなんだから。
B  じゃ、あたし、それ。
A  なに。
B  ぐうたらな大学生。
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