ただいま
「ただいま」
                 作 菅原悠人


優菜(M)「お母さんが死んでから、もう三年がたった。当時中学生だった私は、お母さんがいなくなった事実を受け止められなかった。受け止められたのは、葬式でお父さんの涙を初めて見た時だった。その後、私の家での役割は変わって、お母さんの代わりに私が家事をするようになった。高校受験もあったし、家事なんてやったことなかったから心配だったけど、なんとかなった。お父さんも仕事を早く切り上げて帰ってくるようになった。きっと私のことが心配だったんだと思う。高校二年生になった今でも変わらない。私には夢がある。ピアニストになって、大勢の人に私の音楽を届けたい。そのために練習だって毎日している。だけど、今では叶わないことだって分かっていた。」

    音 料理を作る

父親「優菜。」
優菜「何?」
父親「ちょっとこっちに来なさい。」
優菜「改まってどうしたの?」
父親「いいから。」

優菜(M)「そう言うと、お父さんはいつも見ているニュース番組を消した。私は料理を
してる手をとめ、お父さんの近くに行った。」

父親「進学はどうするんだ?」
優菜「前も話したでしょ。近くの国立大学に行くって。」
父親「そうか、そうだったな」

優菜(M)「偽物の思いなんて話したくないから大学受験の話はしたくなかった。でも本物
の思いは言えないのだから仕方がない。」

優菜「もういい?ご飯作ってるから。」
父親「本当にいいのか?」
優菜「何が。」
父親「そこで優菜のやりたいことが出来るのか。」
優菜「出来るよ、文学部に入って沢山勉強するんだから。」
父親「じゃあ優菜の部屋にあった、これは何だ。」
優菜「え。」

優菜(M)「お父さんは、音楽大学のパンフレットを取り出した。それは私が入りたかった
学校だった。」

父親「勝手に部屋に入って悪かったな。」
優菜「……ただ興味本位で見てただけだよ。」

優菜(M)「嘘だ。」

父親「本当はこの学校に進学したいんだろ、夢だったピアニストを叶えるために。」
優菜「私が音楽大学?ピアニスト?あり得ないって。」
父親「じゃあ、何で毎日ピアノを弾いているんだ。」
優菜「ただの趣味だよ。それ以上でもそれ以下でもない。ピアニストなんてとっくに諦めた
よ。」

優菜(M)「嘘だ。お父さんに嘘をつき続けている。そう思うと、胸の奥から熱いものが込
みあげてきた。」

優菜「大体、私が音楽大学に行ったら誰が家事をするの、ここから通えないんだよ。 お父さん洗濯物だってろくに干せないじゃん、それに……一人ぼっちになっちゃうんだよ。」
父親「父さんのことは気にするな、優菜は優菜のしたいことをやれば良いんだ。」
優菜「だから、近くの国立大学に行きたいって言ってんじゃん、どうして分かってくれないの。」
父親「優菜。」
優菜「大丈夫だから、私、国立大学に行きたいから。」
父親「母さんに死ぬ直前言われたことがある。」
優菜「え?」
父親「優菜のこと宜しくね、だ。」
優菜「……お母さん。」
父親「だから父さんな、母さんの代わりに優菜を幸せにしないといけないんだ。国立大学に入って優菜は幸せか?」
優菜「……ごめんなさい、私、嘘ついてた。」
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