天使にアイドルソングを・・・
天使にアイドルソングを・・・

作 渡辺キョウスケ

《登場人物》
・ヤマザキ マツリ/シスター・アンゼリカ(♀)
・シスター・ブランジェリー(♀)
・シスター・パスコ(♀)
・シスター・ハースブラウン(♀)
・シスター・ポンパドール(♀)
・シキシマ(♂)
・キムラ(♂)
・ハルさん(♂)


 スポット。マツリが一人立っている。

マツリ「私の名前はヤマザキマツリ。数年前までアイドルをやっていました。今や国民的人気を誇るアイドルグループ、『銀杏坂46』(いちょうざかフォーティーシックス)。私はそのグループの一期生でした。私がグループに入った当初はまだ人気も全然無くて、メンバー自ら路上に立っては、道行く人にライブのチラシを配っていました。そんな地道な活動が実を結び、段々と人気も出始め、TV番組にも呼ばれるようになりました。しかし、TVで注目されるのは、キャラクターが面白くてイジりやすい子達ばかりで、私のように、まあ、(ややドヤを含んだ半疑問形で)そこそこ可愛い?・・・でも、特にフックのあるキャラという訳でも無い人間は、なかなか日の目を見ることが出来ず、運営が新たに加入させた、キャラの立った後輩達にどんどん人気を追い抜かれていきました・・・そんなある日、後輩の一人が、週刊誌にスキャンダルを素っ破抜かれました。ファンの男性と関係を持っていたことが発覚したのです・・・ざまあみろ!大して可愛くもないのに、ちょっとTVでチヤホヤされて調子に乗ってるから、天罰が下ったんだ!私はそう思いました。これであの子がクビになれば、ポジションに空きが出来る・・・どこかの誰かが言っていました。『努力は必ず報われる』。私みたいに、キャラが無くても地道に努力している人間にもチャンスが巡ってきたんだ!神様はいる!私のような人間を、神様はちゃんと見てくれてた!ありがとう神様!・・・しかし、喜んだのもつかの間、信じられない事態が起こりました。運営は彼女をクビにしなかったのです。しかも運営は、彼女を新しく出来た姉妹グループに移籍させ、そのグループのキャプテンに任命しました。このサプライズ戦略は見事に当たり、その話題性から、姉妹グループともども彼女の人気も急上昇、今やTVであの子を見ない日はありません・・・私は何もかもがバカバカしくなって、グループを辞めました。もうアイドルなんて懲り懲りだ。さっさと良い男を捕まえて、結婚して、家庭に入ろう。そう思い、私は婚活を始めました・・・しかし、ここでもある誤算が生じたのです」

 場面は婚活パーティに。
 男1、登場。さえない中年男性。

男1「へえ、ヤマザキさんってアイドルやってたんですか」
マツリ「(猫撫で声で)はい、そうなんですぅ」
男1「いやあ、道理で可愛いなぁと思ったんですよ」
マツリ「いえ、そんなぁ・・・ありがとうございますぅ」
男1「そんなに可愛いのに、どうしてこんな、婚活パーティなんかに?」
マツリ「ほらぁ、アイドルグループって恋愛禁止じゃないですかぁ?私、10代からアイドルやってたんでぇ、今まで男性の方とお付き合いしたことがなくてぇ、どうやって恋愛したらいいか分かんないんですよぉ」
男1「へえ、そういうもんなんですねぇ。いや、お恥ずかしながら、私も40過ぎてまともに女性とお付き合いしたことがなくて。もし宜しければ、お友達から・・・」
マツリ「(素に戻って)あ、ごめんなさい」
男1「え?」
マツリ「あの、無理ですね、はい」
男1「え、どうして・・・?」
マツリ「いや、何ていうか、見た目がタイプじゃないんで。タイプじゃないっていうか、レベル低すぎ?何で私みたいな可愛い女に声かけられたのかな?っていうのがスゴくあって。何ていうか、お前の顔面偏差値で、ウチみたいな難関大学志望すんの無謀じゃね?みたいな。だから、話しかけてくんじゃねーよキメーな、とっとと私の視界から消え失せろ、っていう。ええ」
男1「あ、はい・・・」

 男1、言われるがまま立ち去る。
 入れ替わりに反対側からチャラい感じの男2、登場。
 場面、コンパに。

男2「それじゃあ、カンパーイ」
マツリ「カンパーイ」
男2「いやあ、今日のコンパは当たりだよ。だってマツリちゃんみたいな可愛い子がいるんだからさぁ」
マツリ「(再び猫撫で声で)いえ、そんなぁ・・・ありがとうございますぅ」
男2「あ、オレ、タクローっていいます。ヨロシク」
マツリ「よろしくお願いしまぁす。あのぉ、タクローさんって、お仕事は何されてるんですかぁ?」
男2「オレね、ミュージシャンやってるんだ」
マツリ「ミュージシャン・・・?」
男2「まあ、今はまだ全然売れてなくて、路上でライブやりながら自主制作のCD売ってるって感じなんだけど。でもいつかはメジャーデビューして、武道館とか東京ドームみたいなデカいハコ立って、ゆくゆくは海外とか進出出来たらいいなーとか思ってんだけどね。まあ、でも、今みたいなインディーズの活動の方が、オーディエンスのバイブスが直に感じられるから、オレの性に合ってんだけどさ。あ、そうだ、(懐からCDを出し)これ、オレが今まで作った10枚のアルバムの中から、厳選した曲を集めたベストアルバムだから、良かったら聞いてよ」

 マツリ、CDを受け取り、無言でそれを割る。

男2「え・・・!?」
マツリ「あのー、何ていうか、本当に、こういうこと言うとアレなんですけど・・・死ねばいいのに。死んで、もう生まれ変わるな、って思いますよね。一応、芸能界の末席ですけど、その現場に身を置いていた人間から言わせてもらえれば、インディーズって言葉に甘えんな、と。インディーズって言えば聞こえは良いけど、路上ライブで自分で作ったCD売ってるって、それ、素人じゃん、っていう。メジャーに行ったこともないくせにインディースの方が、とか抜かしてるクソ素人が、ゴミ屑みたいな曲集めて何枚アルバム作ろうと一生売れねえよ、お前にベストなんか無え、そんな気持ちで一杯です。はい(割ったCDを男2に返す)」
男2「(受け取り)・・・」

 男2、泣きながら去る。
 再びマツリにスポット。

マツリ「・・・この有様です。恋愛の仕方が分からないばかりか、アイドルだったというプライドが邪魔をして、つい高望みをしてしまうのです。こうして月日は流れ、誰とも付き合えないまま、私は30を目前にしていました・・・失意と絶望の中、私は街を彷徨い、気づくとそこは、街外れのさびれた教会でした。そして私は今、その教会の懺悔室にいます」
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