手とつなぐ
『手とつなぐ』
【キャスト】
・伊達一(だてはじめ)
・こそ泥の二平治(にへいじ)
・閻魔大王
・司命(しみょう)
・熊坂惣兵衛(くまさかそうべえ)
・安場県令
・佐藤基治/武士/地獄の鬼たち ほか
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明治8年ごろ、閻魔大王が裁きを下す閻魔庁にて
舞台中央に閻魔大王が座る椅子と大きな机。机の脇にひとつ椅子。机の上には、閻魔帳、筆、舌を抜くために使うのだろうか、大きなペンチなどもきちんと置かれている。そ机の後ろ、舞台正面にはさらに大きな鏡、「浄玻璃鏡」がある。これは、裁きを受けるものの、生前の行いを映し出す鏡。
そこに、こそ泥の仁平次が、司命(しみょう)に連れられてやってくる
仁平次 「ひやァ! どこに連れてかれるかと思ったら、閻魔大王のお部屋じゃないかよ! 一体何をさせるつもりなんで!」
司命 「今から説明をするから待っておれ」
仁平次 「閻魔さんのお部屋に来るのは二度目だ。なんだ、もう一度判決をやりなおしてくれんのか! そうだよな、あんなちっくら食い物を盗んだだけで地獄行きなんざ…」
司命 「・・・」
仁平次 「おっと、いや、反省はしてんだよ。人様のものを奪っちゃいけない。それはよォく解った、地獄の辛ェ時を過ごしてりゃ、そりゃあもう」
司命 「お前の地獄での行いが、認められてな」
仁平次 「お! ってことは、もしかして、極楽行きかい!? 閻魔大王みずから、お勤めご苦労さんって、賞状を下さるってなわけか」
司命 「べらべらとよく喋る。地獄に行っても、そこだけは直らないもんだ」
仁平次 「しんどい時こそ、言葉にする。これに越したことはないもんだ!」
司命 「ここで待っておれ。閻魔さまを呼んで参る。じっとしておれ」
司命はける
仁平次、部屋を見回し、真ん中にある、大きな鏡に姿を映して遊んだり、真ん中の椅子に腰かけてみたりする
仁平次 「…おお、良い椅子使ってんなぁ…! 」
仁平次、椅子に座り、机の上にある帳面をこっそり見ようとする
仁平次 「(帳面の表紙を見て)伊達一(はじめ)?」
そこに閻魔大王がやってきて
仁平次 「(慌てて席を離れて)…大王! 温めておきました」
閻魔 「…(座って)温いな」
仁平次 「へえ! 気が利くでしょう!」
閻魔 「その帳面には、その者が生まれてから死ぬまでのことが書いてある」
仁平次 「(思わず手に持ってしまっていた帳面を戻しながら)へえ! それは驚きで」
閻魔 「読んだか?」
仁平次 「いいえ、ちっとも、表紙さえも!」
閻魔 「目を通しておけ。今日、お前と共に裁くのが、この男だ」
仁平次 「へ?」
閻魔 「伊達一。福島県伊達郡湯野村の出。生まれながらにして目が見えず、按摩(あんま)師として生計を立てていた」
仁平次 「ちょっと待ってくださいよ、大王。共に裁くってのは?誰がですか?」
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