ダイイング・レッスン
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作・こさべあきひろ
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【登場人物】
本田 聡一
鈴木 美智子
松田 次郎
泉 好実

【舞台】
人通りのほとんどないところに位置する廃屋。


    1

 本田が大きめのカバンを持ってやってくる。

 本田は辺りを必要以上に警戒しつつ、
これから自分がすることにとってふさわしい位置を探すために、
立ち止まっては少し移動し、また立ち止まっては少し移動し、
また辺りを警戒し……ということを繰り返している。

やがて、ふさわしい位置をみつけたのか、
ひとまず納得したようにうなずく。

 本田は、スマートフォンを取り出し、なにやら操作しだす。
 ボイスメモを起動したようだ。

本田は、スマートフォンに語りかける。

本田 あ、あ、(きちんと録音されているか執拗にスマートフォンを確認する)ええと、……あなたがこのメッセージを聞いているということは、俺はもう、この世にいにゃい、

 本田は一度、録音を中断し、自分の頬を叩く。咳払いをし、軽く発声する。
 言葉を言い間違えないように、「いない。いない。この世にいない。」などと繰り返し、練習する。
軽く咳払いし、もう一度、録音に入る。

本田 ……あなたがこのメッセージを聞いているということは、俺はもう、この世に「いない」だろう。このメッセージを録音し終えた後、俺は、この廃屋で、自分で作った爆弾を爆発させ、死ぬ。俺のスマートフォンから命令を送ると、俺のカバンに入っている爆弾が爆発する仕組みだ。……これ作るの、けっこう大変だった。作ってる途中に、導火線に火をつけて爆発させるタイプにすればいいと思ったけど、もう8割くらい作り終えたあとだったから、今更それを無駄にするわけにもいかず、がんばって仕掛けをつくった。褒めてくれ。……さて、なぜ俺が死にゅのか、

 本田は一度、録音を中断し、自分の頬を叩く。
 もう一度はじめから取り直すかしばらく悩んだ末、もう一度ボイスメモを起動する。

本田 続きを話そう。なぜ俺が死にゅ、(咳払い)「死ぬ」のか。バカげた話にきこえるかもしれないが、俺には愛する人がいた。まゆゆちゃんだ。彼女っていうか、……彼女だ。……彼女だった。1年前、俺はまゆゆに振られた。「ダメなところがあったら直す」と言ったらこう言われた。「なんか生理的にやだ」。それから仕事も休みがちになった。妙にだるくて、朝起きられなくなった。結局、仕事も辞めることになった。そして、2週間前かな、俺がまゆゆのフェイスブックを見ると、まゆゆが結婚を報告していた。俺より顔の整った金持ち。これが世の中か。そう思った。もともと、化学や工学が好きで、趣味で色々な薬品や部品を揃えていた俺は、爆弾をつくることを思いついた。首吊りなんかも考えたが、最後くらい、俺らしく死のう。そう思った。……まあ、話すことはこのくらいだな。このスマートフォンを発見してくれてありがとう、どこかの誰かさん。それじゃあ……、

 本田、最後の言葉を考える。

本田 (しばらく考えた結果)……あばよ。

 本田、最後の言葉が「あばよ」であったことに関して、なにかしっくりこない様子。

本田 ……すまない、「あばよ」はイマイチだったな。……グッビャイ。

 本田、ボイスメモを止め、自分の頬を叩く。
 最後の言葉を噛んだことにかなりへこむが、

本田 ま、ま、いいか、別にグッビャイでも……。

 本田、再びスマートフォンを操作する。

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