河童草
○登場人物○
吉村香代
鉄太
吉村権平
お節
美緒
細谷源太郎
戸田蔵太
吉村ミツ
松吉(馬)
女将
他、村人たち、男たち
○
1849年・秋。
東北地方の亀田藩のある町。
その町外れの山へと続く道。
雷雨が吹き荒れる夜。
村人達の「河童じゃ」「赤子が連れ去られた」などと叫ぶ声等で慌しい雰
囲気。
赤ん坊を抱えた男が、闇に紛れ走る。
権平の声 待て!
男、振り返る。
武士の吉村権平(28)、刀を構えている。
権平 産まれたばかりの赤ん坊を何処へやるのじゃ。何が目的じゃ。返せ。
権平、刀を構えたまま、にじり寄る。
しかし男は身じろぎもせず睨んでいる。
権平 最近山に河童が出没するという噂じゃが、そんなものおるわけなかろうが。
そんな格好をして、一体何のつもりじゃ? 今ならお咎めを軽くしてやる
ことも出来る。その子を返すのじゃ。
雷が数度鳴り、男の姿が浮かび上がる。
権平、その顔を見て、驚愕する。
頭に皿を乗せ、背中に蓑を纏っているが、甲羅のように、膨らんでいる。
激しい雷鳴が続く。
男は笑い、権平に何か言いながらにじり寄る。
権平は怯えるように刀を構え、ジリジリと下がる。
権平 (雷鳴の止んだ間に聞こえる)来るな。来るな。
雷鳴の中、男はたじろぎもせず、何か言いながら近づく。
権平 アー。
権平、男を切る。
男、ゆっくりと倒れる。
権平 香代!
男の懐から赤ん坊を奪うと抱きかかえる。
男、震える手で香代を指差す。
大きな雷鳴。
男、最期に何かを言い力尽きる。
権平、赤ん坊を胸に抱き、恐怖に慄いている。
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