『吾輩は猫やめる』
『吾輩は猫やめる』

吾輩……元猫。
主人……飼い主。


暗転中。
声のみ。

吾輩「吾輩は猫である。……いや、猫であった。猫だった、気が、する。記憶の淵ではそうだったはずだ……それなのに何故だ……なぜ……」


明転。


舞台上、ネズミの格好をした吾輩。
二足歩行。
上手にキャットフード。
下手に猫じゃらし。

吾輩「なぜ、ネズミになってしまったのか……思い返せば、先日調子に乗って『吾輩は猫である、名前はまだない』とか言った日から変化は起きていた……気がする。事実吾輩には名前がある。タマである。今どき猫にタマなんて名前を着けるのは磯野家くらいである……」

上手のキャットフードを一瞥し、ため息をつく。

吾輩「確かに。確かに最近猫ってのも飽きてきたから『吾輩は猫やめる! 名前は……ポチにする!』とか叫んだけども。ポチにするって叫んでなぜネズミになるか。せめて犬だろう。犬ならまだ、まだなんかよかったのに。なぜ追いかける側であった吾輩が、追いかけられる側に……。この姿になってからというもの、キャットフードに魅力を感じなくなってしまった。やはり、ネズミのサガか……悩ましい……」

徐に上手に行き、徐にキャットフードを食べ始める。

吾輩「これから吾輩は……どうすれば……何を食べて生きていけ……ハッ!! 気付かぬ内にキャットフードを食べてしまっていた……案外食べられる……まだ猫の部分は残っていると言うことか……!!」

主人、下手から入ってくる。

主人「ただいまー、1人で寂しかったかー??」
吾輩「……問題はコイツである。吾輩の飼い主だ」

主人、猫じゃらしを手に取り。

主人「ほら、タマおいでー、ほらおいでー」
吾輩「……吾輩ネズミぞ? 今ネズミぞ? なにゆえそれで心動かされると思ったのか……最初は吾輩も『もしや、吾輩の目にネズミと映っているだけなのか! 主人の目にはネコのままか!』とも思ったが……」
主人「やっぱりネズミに猫じゃらしは意味ないかぁ」
吾輩「ネズミに見えてるのではないか……!! なぜ試した……」
主人「最初はネズミになってびっくりしたけど、案外ネズミでもかわいいな」
吾輩「……まぁ1つ嬉しかったのは、吾輩がネズミになっても気づいてくれたことか」
主人「よしタマ、チーズ買ってきてやる」
吾輩「主人主人、スマンがもうタマはよしてくれないか、さすがに、さすがに違和感しかないぞ吾輩」
主人「なにチューチュー言ってんだー?? チーズがそんなに嬉しいかー?」
吾輩「……通じるわけないか」
主人「あ、そうだ。ネズミになったなら、ケージかなんかいるかな?」
吾輩「吾輩は必要ないが、主人がいると思うなら甘んじて受けよう」
主人「……いっか、なくても」
吾輩「主人……」
主人「別に、タマの為じゃないぞ!? お金がないからだからな!」
吾輩「ふふ……主人よ、本音を隠さずともよい、人の世で言うツンデレと言うやつだろう。私も主人とテレビを見ていたからな、わかっておるぞ」
主人「確かここらへんにポッキーかなんかの箱あったからな、それで作るか」
吾輩「本音!! ツンデレじゃなかった!! なんなら吾輩用のケージだとしてポッキーの箱何箱使うのか……!!」
主人「あー、捨てたっけか、ねぇなぁ。仕方ない、放し飼いにするか」
吾輩「仕方ないとは……猫からネズミになるだけでこれ程までに扱いが変わるなどとは……」
主人「あ、そうだチーズ! チーズ買ってくるな!」

主人、はける。
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