エイプリルフーラーズ
4月 エイプリルフール
音楽プレイヤーで自分たちの曲を聞かせる茂地野 論(もちの ろん)と聞かされているおじさん。
論「ね、最高にアがるでしょ」
お「いやあ、おじさんには分からないな。最近の音楽には疎いから」
論「何言ってるの。ギターと声だけでやるフォークだよ。おじさんのティーンの頃にこそあった音楽でしょう」
お「ううん、分からないなあ」
論「まあいいや。私たちが狙うのはそれこそ現代のティーン層だし。ティーン向けフォークシンガーだから、シニアには分からなくて当然」
お「シニアかあ」
論「今聞いてもらった曲のギターがターゲットの南谷佳弥。ここで同居しているんだけど、帰ってきたところに突然『解散しよう』と嘘を吐く。そこでおじさんには、絶妙なタイミングでこの看板を持って来てほしいの」
看板には往年の「ドッキリ大成功」
お「絶妙なタイミングって、そんな曖昧な」
論「絶妙なタイミングとは、いい頃合いってことよ」
お「それは分かるよ。じゃなくて、具体的に何分後とか、合図を決めておくとか」
論「そうねえ。じゃあ、音楽を流すからそしたら出てきて。それなら簡単でしょう」
お「まあ、それなら」
ピピピと鳴る
論「佳弥がK点を超えたようね」
お「何その装置、お金のかけ方おかしくない?」
論「もうすぐ佳弥が戻るわ。早く隠れて」
お「え、隠れるってどこに」
論「風呂場!風呂場と玄関にしか扉ないから、この家」
お「風呂場はダメなんだ。風呂場だけは」
論、むりくりおじさんを詰め込む、同時くらいに佳弥戻ってくる
佳「ただいま」
論「はあ、はあ」
佳「大丈夫?何かあったの?」
論「いえいえ、いつも通りの平常運行であります」
佳「ええ、何そのノリ。肩で息してるじゃんよ」(帰ってきて靴下脱ぐなど)
論「…。実は佳弥ちゃん。重大な話があるの」
佳「何かあるのね。うん、それで?」
論「あのね、とってもとっても悩んだんだけど…。私たち、解散しよう」
佳「え」
論「今どき、女性二人組のフォークシンガーなんて流行らないんだよ」
佳「いや、この際解散うんぬんはどこかに置いとこう」
論「置いといちゃ駄目だよ!何言ってんの、最重要事項でしょう」
佳「それよりも、今そんなこと言いだしたあんたの神経を疑うわ」
論「それは、今日が4月1日なのがいけない」
佳「駅から近いのに安くて便利だね、と引っ越し上京したのが昨日まで。さあ、今日から新生活頑張ろうというのが“今”なんだよ」
論「え、それがどうかしたの」
佳「言うならせめて上京前でしょうが」
しんと静かになったところで、論は音楽を流し始める。
論「…タッタラーン」
佳「…」
論は風呂場を見やるが何も起きず、佳弥は真剣な表情で音楽のスイッチを切る
佳「論、私たち真面目な話してるんだよ」
論「ご、ごめん」(その後もチラチラと風呂場を見る)
佳「急に言い出すってことは何かあったんでしょう?ほら、こないだのライブの時に、誰かと話してたじゃない。その、論だけデビューすることになった、とかさ」
論「いや、そこまでの理由を用意していなくて」
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