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成人式の日に

1月　成人式

　布団を被っている本体(以降△)、舞台らしく身体を休めている理性(以降○)
　携帯のアラームが鳴り響き、止める△、活動を始める○

△「ふぁあ。もう7時か、全然寝た気がしないな。しないけれど、そろそろ起きないとな」
○「そうです。スケジュール上はすでに起きて朝食を食べ始める時間です」
△「そうなのか。スケジュールどうなってるんだっけ」
○「朝食に10分、シャワー10分、歯磨き・排便・着替え合わせて10分。起きてから家を出るまでトータル30分の計算です。7:30に家を出て、7:45駅に着き、7:53最寄り駅を発車。25分の余裕をもって会場に入る予定です」
△「よしよし、我ながら完璧だな。大人になるための大事な式典だ、遅刻しないよう時間にも心にもゆとりをもっていかないと」

　△、起きようと試みるが、起き上がるまでに至れない

△「え、か、身体が動かない。まさか、これ金縛りじゃないの？」
○「いいえ、単純に眠いだけです。すぐにスピリチュアルのせいにするのはもうやめにしましょう。仮にも本日、成人になるわけですから」
△「自分の冷静な部分に諭されちまった。ああ、これから本当に大人の階段を上れるのか心配だなぁ」
○「大丈夫です。まだまだ今日は始まったばかりですから。とりあえずは現状を打破するのが先決でしょう。金縛りに見紛うばかりの眠気に襲われているこの状況、打破するには2択、これしかありません。眠い身体に鞭打って無理やりにでも起きるか、身体が欲している十分な睡眠を取るか」
△「…。十分な睡眠を取る他ない、か」
○「いや、大人は前者を取ると思いますよ」
△「馬鹿野郎！」
○「え」
△「これは身体のあらゆる部位と相談した結果なんだ！眠気を持って無理やり成人式に出たとしよう。出たところで最高のパフォーマンスを発揮できると思うか？」
○「別にスポーツしに行くわけではないんですからねえ」
△「一升瓶片手に、つっぱって、区長に喧嘩を売りに行くんだろう」
○「そんな式じゃありませんよ。知識が荒すぎる」
△「理性よ頼む、寝させてくれ。お前以外の身体全体の総意なんだ」
○「…分かりました。しかし、式には間に合うようにしてもらいましょう」
△「な、なんだって」
○「家を出る7:30までの30分、ここにメスを入れます」
△「まさか。さっき自分で言ってたろう。切り詰めるところなんてない。人を馬鹿にするんじゃない」
○「朝食はむしろ食べない、その10分をまるまる睡眠にいただきます。シャワーは他人から見える部分のみ洗い5分の短縮。歯磨きしながら排便、頑張って急いで着替えて5分。合計20分の睡眠時間の確保に成功です」
△「な、何もないところから20分の睡眠時間を作り出しよったでぇ！」
○「そうこうしている間にも、貴重な睡眠時間は削られていくのですよ」
△「ね、眠らなきゃ！アラームを7:20にセットして、と」
○△「おやすみ！」

　眠って、すぐさまアラーム、起きる

△「早い、早すぎるよ。体感2秒だよ」
○「眠るというのはそういうことです。時計を見てください、実際もう7:20でしょう」
△「本当だ。20分じゃ眠った気にもなりゃしない。かといって、これ以上準備を縮めることもできない。断崖絶壁、瀬戸際のギリギリに立たされちまったってわけか」
○「普通に起きればいいと思いますよ」
△「ちくしょう、これ以上眠る手立てはないってのかよ！残酷だよ！時は無情だよ」
○「…。できない、なんてどの口が言うんですか」
△「何だって？どう見たって無理だ。不潔覚悟でシャワーを全カットしたところで5分。悪いが、歯磨きをカットするほど餓鬼じゃあない。排便、着替えは言わずもがなマストだ」
○「何も出発前ばかりを切り詰める必要もないのです。まず、25分の余裕を持つ必要は本当にあるのでしょうか」
△「それは、時間にも心にもゆとりを…いや、そんな必要はない、か？袴を着るわけでもなし。特別何かをするわけでもなし。むしろ、向こうに着いて時間を持て余すのは目に見えているじゃないか」
○「そうなんです。ギリギリの到着としてすでに25分確保。駅に着いて発射までの8分の余裕も、ギリギリまで詰める。仕上げは急いで走って7分節約。計40分の睡眠時間を召し上がれ」
△「これはまさに、灯台下暗しじゃないの」
○「起きる頃には強い味方、日光も差し込んでいることでしょう」
△「なんてこった、起きれない理由がなくなるな。アラームを8:00にセットして、と」
○△「おやすみ！」

　眠る、アラーム、起きる

△「2秒が4秒になったところでさ」
○「それは体感ですので。ほら、もう8:00でしょう」
△「もう無理だ、起きれないよ」
○「何言ってるんですか。さっき起きれない理由がない、なんて息巻いてたじゃないですか」
△「たかだか40分で眠った気がするかよ。昨日16時間寝て、眠った気がしないのによ」

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