みぞれまじりの、雨 (25分)
杉山、明日香です。はい。間違いありません。私は、母を殺しました。
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ウチが貧しいと気付いたのは、小学校高学年の時です。塾では違う学校の友達が出来るってみ
んなが言ってて、私も塾に行きたくなって。でも母に渋られて。勉強させようとするのに塾に
行かせないのは矛盾してるって文句を言いました。その後、宅急便が来た時にハンコを探して
たら、母の給与明細を見付けました。その額を見て、本当にギリギリなのを母が上手く工面し
ていたのを知りました。食べ物に困った覚えも、みすぼらしい服を着た事もなかった。でも、
反抗期だった私は母を認めませんでした。
中学になって、自分の容姿とか要領の悪さとか、周りとの違いを考えて、持って生まれたもの
を呪って。普段化粧もしない母は、テレビで見る綺麗な大人の女性とは程遠く感じて、勝手に
見下して。そんな人が、男とセックスしたのを考えると、なんだか、気持ち悪くて。私の記憶
では最初から母子家庭でした。どうせ父親もろくでもない人間だろうって思い込んでいまし
た。そんな二人が、性欲に溺れて交わって細胞分裂しただけ。自分は望まれて生まれてきた訳
でもないんだろうなって。
一緒にいるのが嫌になって、奨学金の取りやすい地方の大学を選んで、一人暮らしをしまし
た。初めはコンビニでバイトして、煙草の名前が覚えられなくて辞めて。水商売の体験入店だ
け、何ヶ所か行って。もらえたりもらえなかったりして。普通のバイトをしようとしてまた辞
めて、それを繰り返して…。大学は途中で無意味に思えてしまって。辞める代わりに就職する
つもりで、何処にも決まらなくて。奨学金を返さなきゃいけないのに、保険とか年金とかもあ
って…。一人暮らしが続けられなくなって実家に戻りました。まだ何処かで拘りはあったけ
ど、お金がないと心の余裕もなくなって。自分の無力を痛感しました。
『明日香の好きな様にしていいんだよ』
電話をするまで、責めたり怒られたりするんじゃないかって想像で頭が一杯でした…。ただ、
小さい頃を振り返っても、別にそういう風にされた覚えはないんです。なのに私が変にこじら
せて一方的に避けていたから、母がどういう風に私と接していたかもよく思い出せなくなって
て。意固地になるのを辞めたっていうか、諦めたっていうか、とりあえず気持ちが楽になった
のを感じました。
■■■
私は地元でバイトを始めて、母とも前よりは会話をして、ようやくちゃんと生活を始めまし
た。家事は分担してたけど、母は気になるところを見付けては掃除をしていました。それが母
なりの拘りなんだろうなと思って、しばらくは見ていました。
(拭き掃除をしながら)『…』
「いつまで掃除してんの」
(拭き掃除をしながら)『んー?』
母が一日の間に同じ場所を何度も掃除する様になりました。
(拭き掃除をしながら)『…』
「そこ、さっきもやったでしょ」
(拭き掃除をしながら)『でも汚れてるの』
もうしばらくすると、同じ場所で、長い時間ずっと掃除をする様になりました。
(拭き掃除をしながら)『…』
「もうやめなって」
(拭き掃除をしながら)『汚れてるの!』
初めて、母が私に向けて大きな声を出しました。反抗する気持ちは湧かなくて、恐怖とか不安
とか…。自分が知らない母の一面に、正直、戸惑ってしまって…。
■■■
その後、母が近所のスーパーで万引きをして捕まりました。盗んだのは、ラムネと味付け海
苔。顔馴染みだったお店の人もびっくりして、私がすぐ迎えに行ったのもあって警察には通報
しないでくれました。母は自分でもどうしてやってしまったのか分からないと混乱して、私に
何度も何度も謝って、凄く落ち込んでいました。またやってしまうのが怖いからと外に出るの
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