水もしたたる○○○○○
1モノローグ 人生は、悲しみの水たまりに浮かんでいる葉っぱです。
一つの水たまりには一枚の葉っぱ。
みんな、悲しみを生きている。
悲しみが溢れて、隣の水たまりとつながると、葉っぱと葉っぱが出会います。
そこに喜びが生まれます。
けれど、すべては悲しみの上の出来事です。
大学のゼミ室。乱雑な室内。二人の学生がいる。谷地中和紀と木隠なずな。なずなは原稿を音読している。
読み終えたなずな、不安げに和紀の顔を見る。
木隠なずな どう?
谷地中和紀 淋しいねー。
なずな 気持ち悪い?
和紀 それはないけど。葉っぱは枯葉なの?
なずな 緑の葉っぱ。生きてる。水たまりが枯れると葉っぱも枯れるの。
和紀 ああ、だから悲しみを生きているのか。
なずな そう。わかるかな?
和紀 わかるよ。なずならしい書き出しだと思う。
なずな ありがとう。だけど、インパクト弱い気がするんだよね。
和紀 そう?
なずな ね、「悲しみの」って言わずに水たまりが悲しみだと分からせる方法ないかなあ。
和紀 涙の水たまりとか?
なずな あー、いいかも。
「人生は、涙の水たまりに浮かんでいる葉っぱです。」
……んー、なんか違う。すごい涙の量が必要な感じ。葉っぱが目に入ったゴミみたいだなあ。
中和紀 ゴミが目に入ってどんどん涙が出てくるとか。
なずな あー、地下水脈って感じはいいんだよね。乾いた地面のあちこちに水たまりができているイメージ?
和紀 ふーん。湿地帯じゃないんだ。
なずな むしろ荒涼とした砂漠をイメージしてるの。
和紀 私と真逆だね。
なずな 和紀のも教えてよ?
和紀 題名はね、「雨は止まない」。
なずな 「雨は止まない」?
和紀 そう。舞台は、一年中雨が降っている国。
和紀、自分の原稿を取り出す。なずなに渡す。なずなパラパラと原稿に目を通す。
なずな 晴れないの?
和紀 そう。365日、ずっと降り続いている。
なずな 土砂崩れとか大変そう。
和紀 ずっと降っているから、いつの間にか土地はすべて平らになってしまったの。
なずな 道は?
和紀 道はないの。水路が張り巡らされていて、人々は機密性の高いものすごく大きな船の中で共同生活を送っている。
なずな 季節とかないの。
和紀 大きく二つの時期に分かれるの。比較的雨が弱くて世界が灰色に見える時期と、豪雨が続いて昼でも夜のように真っ暗な世界になってしまう時期と。
なずな、原稿に目を落とす。
なずな なんか暗いねー。
和紀 暗いから、人々は芸術を生きがいにしているんだ。
なずな ふーん。
和紀 だから、歌手とかダンサーとか俳優とかがとても社会的にステイタスが高いの。
なずな へえ。
和紀 どう?
なずな いいんじゃない。
御子柴もゆら、入ってくる。
御子柴もゆら ニュース!ニュース!大ニュース!
和紀 もゆら、ちゃん?
なずな うわ、なんだその格好。
もゆら なずなー。
もゆら、なずなに抱きつく。
なずな やめろ、酔っ払い。
もゆら シラフだよ〜。
なずな だったらその二つ結び、どうにかしろ。
もゆら なんで〜?カラオケ行った時、似合うって言ってくれた。
なずな 酔った勢いだから。
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