Be alive
「Be alive」
舞台はどこにでもある公園である。中央にはベンチがあり、2人の男性が座って会話している。
男1「1つ思うわけだ」
男2「何を?」
男1「なに、簡単なこと、とてもシンプルなことなんだけどね」
男2「勿体つけるね」
男1「うん、本来なら言葉にするのもバカバカしいことだ。でももうそれを言わずにはいられない状況に、考えずにはいられない境遇に今の僕らはいるわけだから敢えて言わせてもらうね。…一体僕らは何のために生きてるんだろう?」
男2「それはまた何ていうか、根源的な問いを立てたものだね」
男1「君だって全く考えないわけでは無いだろう?」
男2「そりゃ確かに考えることはあるよ。いや、むしろ最近はそのことだけを考えて過ごしているといっても過言では無いかもしれないね」
男1「だろう?僕だってそうさ。考えつつもその都度思考を放棄してきたわけだが、いよいよ本腰を入れてその問いに向かい合わなければいけない時が来たんだよ」
男2「できればこのままなぁなぁに、曖昧模糊に済ませたかったものだけどね、まぁそう都合よくはいかないか」
男1「もしかしたらそれでもいいのかもしれないけどね。でも君の性格上、それを良しとはしないだろう?」
男2「そうだね。まぁ僕もそうだし、君だって同じか。というか今頃みんなもしかしたら同じことを考えてるかもしれないね」
男1「そう、なぜ我々は生きているのか、いや、生きてきたのかと言った方が正確かもしれないな。その問いに我々人類は直面しているわけだよ」
男2「ほんと急な話だよ。そういうのは死ぬ時までに答えを見つけられればいい類の問いだろう?まさかこんな性急に答えを求められるとはね」
男1「まぁ、誰も想像できないさ。まさか明日で、…人類が滅ぶだなんて」
男2「……」
男1「……」
男2「隕石衝突の報道がされたのが1週間前だったっけ?」
男1「そう、始めはとても信じられなかったけど、実際空にあんなでかいものが見えちゃあねぇ」
男2「何とか軌道を逸らそうとミサイルとか色々打ったみたいだけど効果無し。後は奇跡を祈ることのみが人類に残された唯一の希望になったわけだ」
男1「まぁそれは神様のご機嫌次第だとしてだ、僕らは知恵ある人間だ。死ぬ直前まで思考を放棄してはいけないと思うわけだよ」
男2「それで問いを立てたわけだね、人はなぜ生きてきたのか、と」
男1「うん、ここからは議論の時間だ。時間の許す限り、納得のいく答えを得られるように努力しようじゃないか」
男2「まぁ他にすることもないしね、付き合うとするよ」
男1「ありがとう。君が僕の友達で良かったよ。」
男2「よせやい、照れるじゃないか」
男1「じゃあまず前提から考えてみようか。そもそも生きるとはどういうことだろうか?」
男2「いざそうやって言われると何とも漠然としすぎてて掴みどころがないように感じるね。まぁ辞書的な意味で答えるのならば生命活動をしていることってのが妥当な線だろう」
男1「そうだね。生の対義語が死であることから考えてみても、生きるってのは、生命活動を持続させる行為そのものだといって差し支えないだろう」
男2「意外と前提はすんなり立てられたね」
男1「まぁ難しいのはここからさ。ではなぜ人は生きるのか、その目的に次は焦点を当ててみることにしよう」
男2「なぜと言われても答えに窮する問題だね。普段そんなこと意識しないからねぇ。生きているから生きている、大体の人にとって生とはそんなものじゃないかな?」
男1「それは確かにそうだろう。けれどそれだけじゃ理由としては足りないな。それじゃいつ死んでも構わないということかい?」
男2「いや、そういうわけでは無いさ。そうだね、死にたくないから生きているというのも理由の1つか」
男1「誰だって自己の消滅は恐ろしいものだ。だから出来得る限り長く生きていたいと思うのだろうね。」
男2「生きているから生きている、死にたくないから生きている、生に対して惰性と忌避という2つの理由が出たわけだけど、君はまだ何かあると考えるのかい?」
男1「そうだね。スケールを大きくして考えるならば、種の存続という観点は外せないだろう。人間だけじゃなく、生命にとっての生の目的はそこに帰属するはずだ」
男2「種としてみれば人間は死なずにずっと生き続けている、そういう話かな?」
男1「そう、もちろん個人個人の心情を考えるならば悔いのない人生を送ることが生きる目的だと言ってしまってもいいのだけれど、種として考えるならば未来まで人類を絶やさないというのが本能として刻まれてる生存理由なのさ」
男2「ふむ、なるほどね。しかしまぁ、それが目的だとするとやるせないね」
男1「そう、人類はおろかあらゆる生物は明日滅亡する。だとするとだ、なぜ人は生きてきたのかというのが大きな問題になってくるわけだよ」
男2「種の存続は無しえない、それならば我々人類が紡いできた2000年余りの時間は一体何だったんだ、そういう話だね?」
男1「そう、これではあまりにも救いがない、今までやってきたことが全部無駄だったなんて笑い話にもならないじゃないか。だから、他の理由を見つけなければいけないんだ」
男2「他の理由?けれどこれ以上は頭を絞ってもでてこない気がするがなぁ」
男1「視点を変えるんだよ。人間の生きる理由を人間に持たせようとするからどん詰まりになってしまうんだ」
男2「どういうことだい?」
男1「つまりだね、この場合神様でも宇宙人でも何でもいいんだけれど、僕らは高位の存在に創られたモルモットに過ぎない、こう考えてみるんだ」
男2「急にとんでもないことを言い出すね」
男1「まぁそう引かないでくれよ。人間はモルモットだった、そう考えればこの滅びにも納得がいくってものさ。もちろん高位の存在が何のために人間を創り生かし続けてきたかなんてことは分からないよ。ただ言えることは、人間は、この星はもう見限られたってことさ。元々人間自身には生きる理由なんて無かった、なぜならそれは与えられた生だったからだ。言ってしまえばゲームの中の登場人物みたいなものだな。ゲームをプレイする側に娯楽を提供するための存在。そして今リセットボタンに手をかけられた。この現状はね、つまりそういうことなんだと僕は思うよ」
男2「驚いたな…」
男1「突拍子の無い話で面食らうのも分かるけど、あくまで1つの解釈としてね」
男2「いや、そうじゃない。まさかこの段階で正解にたどり着く人間がいるだなんてね」
男1「え?それってどういう意味だい?」
男2(電話を取り出し)「もしもし、私だ。計画が変わった。…あぁ、この星を消すのにはまだ惜しい人材を見つけてね。またしばらくは経過観測だ。あぁ、それじゃ」
男1「おい、一体何を話してるんだ…?」
男2「空を見てごらん」
男1「え?あれ、隕石が無くなってる…!?」
男2「おめでとう。君のおかげで人類はまだ存続を許された。君の友人として僕も誇らしいよ」
男1「ちょっと待ってくれ…、まだ理解が追い付いていないんだが、つまり…?」
男2「簡単に言うと、僕は君の言うところの高位の存在ってやつなのさ。まさかこんなどんでん返しがあるとはね。これだから現地の人間との接触は止められない」
男1「……」
男2「まぁ正体がばれてしまった以上、もう一緒にはいられない。どうか良い人生を送ってね。それじゃ」
男2、その場から立ち去ろうとする。男1、その背中めがけて。
男1「おい!」
男2「……」
男1「正直いまとっても複雑な心境だ。世界を滅ぼそうとしてたやつが実は自分のすぐ隣にいただなんて理解が追い付かない…。でも、それでも、俺はお前と友達で良かったよ!少なくともそれだけは確かだから。ちゃんと伝えたからな、覚えとけよ!」
男2、無言で片腕をあげ男1の言葉に応える。その表情はどこか満足そうである。残された男1、再びベンチに腰掛け、空を仰ぎ見る。そこにはどこまでも快晴が広がって。終幕。
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