夢幻回路2003
夢幻回路 二〇〇三

声   接続確認。…潜行を始めます。

 暗転。音楽

シーン1

 明転すると、一人の男が立っている。立ちながら眠っているようでもある。やがて、目覚める。そこは、殺風景な部屋である。箱が二つと、ラジカセが一台置いてある。男、ラジカセを操作してみる。反応無し。

男   ここはどこだ。

 答えは無い。

男   誰かいないのか。

 答えは無い。

男   何故こんなところにいるんだ。俺は。…俺は?

 と、ラジカセから声がする。

声   おはよう。…聞こえなかったのかね?おはよう。
男   なんだこれ。
声   なんだこれだと?なんだその言い草は。君はあいさつもまともに出来ないのかね。
男   え?
声   おはよう。
男   お…おはよう
声   よろしい。
男   …テープだよな。
声   だったらどうなんだ?

 男、辺りを見回す。

声   なにやってるんだ。
男   …どこかに監視カメラがあるんだろ。
声   無いよ。
男   無いわけない。
声   強情だな。なんなら巻き戻してごらん。

 男、テープを巻戻し、再生してみる。さっきからの男のセリフが繰り返される。

声   どうだい、普通のテープだったろ。
男   なんなんだ。なんなんだ、これ。
声   君が目を覚ました時、伝えておきたいことがあったのでね、こんな形で失礼と思ったが残させてもらったんだ。
男   伝えておきたいこと?
声   そう。極めて重要なことだ、
男   ちょ、ちょっと待ってくれ。その前に、ここはどこなんだ?
声   その通り。
男   え?
声   それも、君の存在そのものに関わることだといっていいだろう。
男   いや、あの、俺が聞きたいことは
声   そうさ、存在そのものにさ。うふうふうふうふ。怯えてるね。大丈夫だよ愛しい人。僕の言う通りにすれば、なんの問題もないんだから。
男   …あー…
声   そうさ。僕は君を愛しているんだ。世界中のあらゆる人々はもちろん、君自身より愛してると言っていいだろう。
男   あの、俺、ノーマルだから男は嫌いなんですけど、
声   そんなことは気にしないよ。君のことを一番理解しているのは僕だ。壊れてしまった今でも、君を見捨てたりしないよ。
男   壊れてって、どういうことだ。
声   そのままの意味さ。忘れてしまったのかい?
男   …。
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