どこにでもある、いたって普通の
 登場人物

・狭間竜太(はざまりゅうた)……主人公。余命八十一時間と四十二分二十三秒。約三日とすこし。
・筒井直也(つついなおや)……楽天家。余命六十三万三千七百一時間と十三分三十八秒。
・狭間大地(はざまだいち)……アパートの大家で竜太の兄。余命六十五万七千八百七十二時間と五十七分八秒。





 スポット、舞台中央の竜太。

竜太「現代において、『死に至る病』とは、いわゆる治療のしようがない遺伝病のみである。医学は、科学は、その領域にまで進歩したのだ。しかし当然というかなんというか、不老不死というのは、やはり存在しない。先ほど言った遺伝病、交通事故、そして『老い』などによって、人はいつか死ぬ。この事実は変わらない。科学や医学が進歩しても、僕らの生活が大きく変わることはない。そりゃあ、細々とした生活様式なんかは少しづつ変わっていったけれど。しかし、その中でも、細々とした中でも大きく変化したのは、自分の寿命が分かるということだろう。先ほど言った通り、人が病気で死ぬことは、ほとんどなくなった。残る要因は事故などの外的要因か、治療できない遺伝病、あとは老衰である。当然だが事故などの外的要因は予測できるものではない。しかし、後者。遺伝病や老衰による死は、予測できるようになった。つまり、自分の寿命が、生まれた瞬間から分かるようになった、ということだ。大勢の人間が、生まれたその日に宣告される余命をもとに、人生設計をして生きていく。死ぬ前に遺産の整理や、その他いろいろ死後に起こるであろう問題に備えてから死ぬことができるようになった。もっとも、予測できない外的要因で死んでしまう人も当然いるけれど、世の中の大多数は、自分の生まれ持った寿命の通りに死んでゆく。さて、少し、僕の話をしよう。僕はごく普通の家庭に生まれた、平凡な子供だった。成績も平凡。運動も普通。友達は多くもなく少なくもなく、ただ、恋人はいなかった……いや、つくらなかった。その訳は……そう。これが僕の、唯一周りとは違う、特別なところ。それは、僕の寿命が、たったの二十年だったということだ」


 アパートの一室。玄関。竜太が入ってくる。
 竜太、小さなかばんを持っている。
 部屋には小さなテーブルとベッドとテレビ、そしてゲームのみ。
 部屋の中では、ヘッドフォンで音楽を聞きながら、直也がくつろいでいる。

竜太「今日から、やっと念願の一人暮らしか。まったく、余命三日になってから許可を出すなんて……」

 竜太、部屋にいる直也を見て固まる。
 直也、人の気配を感じて竜太のほうを向く。

直也「誰だお前?」
竜太「それはこっちの台詞だ」
直也「俺か?俺は今日からこの部屋を借りて住んでる、筒井直也って言うんだけど」
竜太「この部屋を?失礼ですが部屋番号を間違えていませんか?」
直也「はざま荘の一○三号室。ほら、間違えてないだろ?」
竜太「いったいどうなってるんだ?ここは確かに僕が……」

 大地、登場。

大地「おい、なんだ騒がしい」
直也「うわ、大家さん。勝手に入ってこないでくださいよ」
大地「じゃあ少しは静かにしとけ。まったく、二日酔いで頭が痛いって言うのに……うん?竜太?竜太か?」
竜太「……どういうことだよ兄貴。この部屋は僕が借りてたはずだろう?」
大地「いやぁ、お前まだ生きてたのか?」
直也「は?」
竜太「僕の死亡予定日は三日後だ!弟の命日くらい覚えとけ!」
大地「ぶふっ、まだ死んでねぇのに命日って、お前」
竜太「いいから!いったい僕はどうすればいいんだよ!」
大地「ああ……すまない直也くん、だっけ?ちょっとした手違いがあったみたいだ。なあに、こいつの寿命は三日後だから。その間だけ……そうだな。ちょうど、荷物も家具も、まだ届いてないみたいだし、今日から三日後まで、一○一号室で寝泊まりしてくれないか?一応大家が住むことになってるんだが、つまり俺の部屋だが、あまり帰ってこないからさ、俺。ああ、勿論は部屋は綺麗だぞ?むしろベッドとテレビとゲーム以外何もないくらいだ」
直也「は、はぁ……それはいいですけど」
大地「本来なら、こいつを俺の部屋にこさせりゃいいんだけど、まあ、最後の我儘だからな。あ、今月分の家賃はおまけしとくよ、当然」
直也「は、はぁ……」
大地「じゃあこれ、鍵ね」

 大地、鍵を直也に渡す。

大地「じゃ、よろしく〜」

 大地、退場。

直也「え、なに?どういうこと?」
竜太「すまない、こちらの手違いで迷惑をかけるてしまって」
直也「……大家さんの、弟?」
竜太「うん。僕は狭間竜太。歳は二十歳だ。よろしく」
直也「あ、ああ。俺は筒井直也。俺も、今年で二十歳。よろしく。それで、さっき言ってた」
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