童話 『麗し姫』
童話『麗し姫』

[あらすじ(冒頭ナレーション)]

昔むかしあるところに、当代一と言われる美貌を持ち、『麗し姫』と呼ばれる少女がおりました。
しかし彼女は年頃になったある日、
仮面でその美貌を隠して、人前に姿をあらわさなくなってしまいました。
困り果てた彼女の父は、姫の仮面を外したものに金銀財宝を振る舞い、姫を娶らせると国中におふれをだしたのです……。


[本編]

(着ぐるみ(頭部のみ)をかぶって、ドレス(着物でも可)を着た姫が座っている)

あら、貴方もお父様に言われて私(わたくし)の元へ来たんですの?
全く……困ったものですわね。
始めに言っておきますが、私は決してこの仮面を外すつもりはありませんので、
時間を無駄にしないためにも早く帰ることをお勧めしますわ。
どうしてって……。私の顔など見ても何も面白いものはありません。
噂に踊らされて見たところでがっかりするだけです。
私よりも可愛いおなごなど、世に五万といることでしょう。
顔が見えなくても、華奢なお姿が可愛らしい、ですか……。
殿方は多少恰幅のよい肉体の方が好みだと伺っております。
私の貧相な身体など何も面白くはないでしょう。
……何故そこまでご自分に自信がないのか、ですか。
端的に申し上げますと、私、他人の好意というものが信用できないのです。
私に可愛いとおべっかを飛ばした者の殆どは、その背後にいる父の財力が目当てでした。
父の娘でない私などは路傍の石のような見向きもされない存在です。
そんな無価値な私など顔を隠して日陰にいるのがお似合いで……。
えっ!? ちょっと何を……。私の言葉の何を聞いて私が優しいという結論に至るのですか?
自分のことを考えて、早く帰ることを勧めてくれたのだろう、ですって?
勘違いしないでください。貴方の為などではありません。
家出や自殺などをせず引きこもるだけだったのも家族思いだったからなんだろう……って、
そこまで考えてた訳じゃありません。偶々ですたまたま。
全く……。本当にお父様が連れてくる方は碌な者ではございませんわね。早く帰ってくださらないでしょうか。
え……。また来るからって……。
全く、本当に物好きですわね。
……ちょっと、目を瞑って下さいませんか。……だーかーら、目を瞑って下さいと言ったのです!

(目を瞑ったことを確認してから、着ぐるみを外して、すぐに戻す)

 ……もう、いいですわよ。えっ? どうしたのって? 何でもありません、今日は早く帰って下さい!
 ……待っておりますから
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