定食屋アンティケヰル
定食屋アンティケヰル
登場人物
店長:無愛想で口が悪いが料理の腕はピカイチ。三十代半ばの独身貴族。
女給ちゃん:明るくて礼儀正しいがメシマズ。十代後半のじゃじゃ馬娘。
世界観
かつて、この国には仕事に追われ続けて倫理観を失い、寝食すら放棄した者たちがいた。
“社畜”と呼ばれていたらしい彼らの身体は、過酷な生活に適応したのか、やがて寝食を必要としなくなった。
これが現在“新人類”と呼ばれている種族の始まりであった。
新人類は一日一度特定の栄養剤を摂取することにより、寝食の必要無く活動し続けることが出来る。
ただし、それ以外に栄養を余分に摂れば、身体がショックを起こし死に至る。
また、当初より伸びたものの、新人類の寿命は旧人類に比べて短命だった。
ハンデがありながらも、彼らは、穏やかにしかし着実に、旧人類を駆逐していった。
これはそんな新人類と旧人類の共存する時代で、
大正浪漫風な定食屋を営む、数少ない旧人類の生き残りの店長と
そこに料理を習いに来ている女給さんのお話。
本文
ジャズっぽい音楽が流れ、女給に単サスが当たる。
女給 いらっしゃいませ、定食屋アンティケールへようこそお越し下さいました。
本日のお薦めメニューは「ビーフストロガノフの赤ワイン仕立て」と
「軍港のライスカレー」になります。
ご注文お決まりになりましたら、お手元の呼び鈴で従業員をお呼びください。
音楽が止み一度暗転。閑古鳥の鳴く音。
女給 はぁ……。今日もお客さん来ないですね……。
店長 今客がいないからといって今日来ないと決めつけるな。
女給 そうかもしれないですけど……。大体店長、今時定食屋なんて流行らないですよ!
わざわざご飯を食べるのなんて今日び「旧人類」くらいですし。
店長 然し、その数少ない「旧人類」が、うちの料理を求めているかもしれないだろう?
そう考えると店をたたむ訳にはいかんな。
女給 そうですか……。まあいいですけどね。お給金さえちゃんと貰えるのでしたら。
店長 現金な奴め。料理を教えている分、半額ほど月謝として差し引いてやろうか。
女給 私だって一人暮らしで大変なんだからやめてくださいよー。
養ってくれる素敵な旦那さんと結婚するためにも料理上手にならないとですね!
店長 君みたいな御転婆な娘が結婚できるとは到底考えられないが。
女給 店長ってば自分が独身だからって非道いです!
ところで店長、この間教わった料理を作ったから、食べてもらえますか?
店長 はぁ……。またあの不味い料理を食べろというのか。
女給 大丈夫です! 今日のはちゃんと自信作ですから!
店長 それは昨日も聞いた。
女給 確かにそうかもしれませんけど、昨日よりは良くなってるはずですもん。
それじゃあ、持ってきますので、精々腰を抜かさないようにしてくださいね。
女給、一旦はけて皿に盛られたカレーを持ってくる。
女給 じゃじゃーん。
本日のお薦めにもなっている「軍港のライスカレー」を作ってみました。
店長 ……このカレーはこんなに赤くなかった筈だが?
女給 え? それは、「軍港」というからには多少の血なまぐささも必要かなーって。
店長 ……。
女給 ああっ、冗談ですよー。実は唐辛子とタバスコを増し増しで入れちゃってー。
店長 はあ……(頭抱え)。毎回毎回食べ物を無駄にして……。
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