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Diaries

「Diaries」
舞台はどこにでもある公園である。中央にはベンチがあり、その近くには吸殻入れが設置されている。

明転。ベンチに座っている女。日記帳を黙々と読んでいる。上手より男が出てくる。喫煙場所を求めて、ベンチ横にある吸殻入れの近くに向かう。

男「失礼。一服させていただきますよ」(煙草を取り出す)
女「(日記帳に目を向けながら)えぇ、どうぞご自由に」
男「よろしければ一本いかがですか？」
女「いえ、遠慮させていただきます。嫌いなんです、煙草」
男「そりゃ失敬(女1から距離を取ろうとする)」
女「あぁ、別に離れていただかなくても大丈夫ですよ」
男「でも、お嫌いなのでしょう？」
女「直接吸うのがね」
男「と言うと？」
女「香りは好きなんです。嗅ぐだけならそこまで身体に害も無いでしょう？」
男「まぁ直接吸うのに比べたらそうでしょうな」
女「だから私、ファミレスとか行くときはついつい喫煙席に座ってしまうんです」
男「匂いを嗅ぐために？」
女「えぇ」
男「変わったお方だ」
女「よく言われます」
男「それでは、遠慮なく吸わせていただきますよ(煙草に火をつける)」
女「(息を吸い込み)あぁ、ピースはやはりこの甘い香りが堪りませんね」
男「嫌いと言っておきながら、あなたは相当煙草好きのようだ。なかなか一発で銘柄を当てられる人はいませんよ」
女「えぇ、まぁ(再び日記帳を読みだす)」
男「何です、それは？」
女「日記帳ですよ。毎日つけては確認してるんです。」
男「確認ですか」
女「えぇ、ここには私の人生の全てが書かれているんです」
男「全てと言うと、ちょっと大げさにも感じますが」
女「でしょうね。でもあながち嘘でもないんですよ」
男「まぁ確かに毎日細かくつけていたのならば、人生と言っても差し支えない代物に感じるものでしょうな」
女「少し違いますね」
男「と言いますと？」
女「感じるという言葉では弱い、この日記はもっと絶対的なものなんです」
男「絶対的？」
女「きっとあなたには信じられないことだと思います。聞いたら吹き出してしまうかも」
男「そう言われると俄然興味が湧いてきました。何をもってしてあなたはその日記を絶対的なものだと言うのです？」
女「気づいたのは偶然だったんです。ほら、部屋の掃除をしてる時にふと無性に別のことをしたくなる時があるでしょう？そんな感じで私は毎日つけていた日記を読もうと思ったんです。それまでは書いたらそのままほったらかしにしてましたから、読むのはその時が初めて。最後まで読んだとき、どうしようもない違和感と気持ち悪さが私を襲いました」
男「一体それはなぜ？」
女「日付がね、違ったんです」
男「日付？」
女「一番最後に書いたページ、昨日書いたのに今日の日付になっていたんです」
男「それだけだと、単に間違って書いた風に聞こえますが」
女「ですよね。でもね、そのページにこう書いてあったんですよ。『今日は部屋の掃除をした。』って」
男「え？」
女「おかしな話でしょう。私は確かに昨日日記を書きました。でも日記には明日の日付で明日の出来事が書かれていたんです」
男「…」
女「思い返してみると私は日記を書いたことは覚えていますが、何を書いたのかさっぱり思い出せないんです」
男「記憶違いという可能性は…？」
女「初めは私もそう思いました。でも次の日もその次の日もまたその次の日も、私が書いていたのは翌日の出来事だったんです」
男「そんなことが…」
女「私はどこかおかしくなってしまったのではないかと、病院にも行って調べてもらいました。けれど、何の異常も見つけられませんでした。その内に私は、これは神様が私に与えてくれた特殊な能力だと思うようにしたんです」
男「特殊能力…」
女「えぇ。これはきっと私が善く生きるために授かったものなんです。この力を利用して、私はできる限りの人の不幸を救ってきました。そして今日も人助けをするために私はここに来ました」
男「どういうことです？」
女「今日の日記はこうです。『公園でサラリーマン風の男性と出会った。煙草を進められたが断った。彼は私と同じくピースがお気に入りらしい。』」
男「それって…」

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