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人魚奇譚CLARISSA

2023版

CLARISSA
作：海部守
時：ちょっと昔のヨーロッパ
所：田舎の港町

登場人物
ヨハン　　：貧しい若者。
クラリッサ：ヨハンの幼馴染。
ジョーイ　：アルモンド家の御曹司。
人魚　　　：年老いた人魚。
バッチョ　：アルモンド家の奉公人。
カルバス　：アルモンド家の奉公人。

●第一場●
　　　田舎の港町。
　　　カルバスとバッチョが座っている。
　　　目の前に広がる海に向かいのんびり背伸びなどしている。

バッチョ　　おい、今日もいい天気だな。
カルバス　　そろそろ戻ってくるんじゃないかな。
バッチョ　　美味い魚をいっぱい積んでるといいな。ここ何年も不漁続きだし。
カルバス　　お前、食うことだけしかないのか？
バッチョ　　無い。
カルバス　　残念だが、魚はないぞ。
バッチョ　　何でだよ。漁に出たんだろ。
カルバス　　俺が言ってるのは、漁の船のことじゃない。我らがアルモンド家の貿易船の話だ。
バッチョ　　おお、ってことは！
カルバス　　ってことは！
バッチョ　　別の上手いものが乗ってる！　豚肉かな、鳥肉かな？　それともまだ見たこともない果物かもしれないな！　美味しいものを腹いっぱい食いたいなぁ。
カルバス　　だから、食い物から離れろ。
バッチョ　　だったら、他に何がある？
カルバス　　他に？
バッチョ　　他だ。
カルバス　　他……。
バッチョ　　無いのか？　人の言ったことを散々馬鹿にしておいて、俺よりも何も思い浮かばないとはな。
カルバス　　俺は、食べ物が悪いとは一言も言ってないぞ。
バッチョ　　何？
カルバス　　俺は食べ物のことしか頭に浮かばないお前に問題があると言ってるんだ。
バッチョ　　悪いのは俺か？
カルバス　　お前だ。
バッチョ　　もういいや。なんとでも言え。
カルバス　　デブ。不細工。
バッチョ　　ちょっと待て、悪口を言えとは言ってないぞ。
カルバス　　何でも言えといったくせに。嘘つき。
バッチョ　　ああ、もういいよ。それにしても、ジョーイ様は本気かね。
カルバス　　本気だろうさ。
バッチョ　　しかしなぁ、あんな町娘を花嫁にしようだなんて。
カルバス　　お心のお優しいお坊ちゃんだからな。クラリッサみたいな子を放っておくことなんて出来ないんだろうよ。
バッチョ　　ジョーイ様はお優しいか？
カルバス　　そういうことにしとけ。
バッチョ　　俺、クラリッサをいじめたことがあるんだよ。
カルバス　　いつだ？
バッチョ　　５年くらい前かな？　クラリッサがまだ１０歳くらいのときだ。
カルバス　　何で？
バッチョ　　人魚の息子に嫌がらせをしてたら、横からしゃしゃり出てきて俺のことをデブだと言いやがってな。頭にきたんで海に突き落としてやったんだ。
カルバス　　ひどい奴だな。本当のことなのに。
バッチョ　　覚えてると思うか？
カルバス　　知るか、本人に聞いて来い。
バッチョ　　覚えていたら、奥様になられた時に仕返しされるだろうなぁ。

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