さいのかわらやね
さいのかわらやね
作 松永恭昭

登場人物

鬼/地蔵

時と場所
いつかわからない、河原。


川の音が聞こえる。
女が、石を積んでいる。
黙々とつんでいる女。
そして、じっと、積んだ石を見つめる。

女 ある日、気づくと、私は河原で、石を積んでいた。

再び、黙々と石を積んでいく。

女 私は一日中、石を積み続ける。なぜなら、私はここにいて、石を積まないといけないから。ここはどこで、私はなぜ石を積んでいるのか? それは、あまり問題じゃない。なぜなら、私はここにいて、石を積まないといけないからだ。

女、ある程度、石を積むと、再び考え込む。
そして、女、積んだ石を見つめる。

仮面をつけ、棒を持った鬼が現れる。

鬼 時間で〜す。

女 この鬼は、一日に一度、夕方に現れ、私が積んだ石を壊していく。この鬼はなぜ私が積んだ石を壊していくのか? それは、あまり問題ではない。なぜならこの鬼は、一日に一度、夕方に現れ、私が積んだ石を壊していくからだ。

鬼、覇気のない様子で、そう言い、手に持った棒で、何千、何万と繰り返したかのように、石を崩して、去る。
女、石を見つめている。

女 これで、何度目だろうか? 私は、石を積まなければならない。石を積み、壊され、そして、また積む。私は、石を積み続けなければならない。

女が石を積んでいく。

少し離れて手前に、鬼が現れる。

鬼 「さいのかわらやね」シーン1、考える女

鬼が消える。


女が石を積み終えて、眺めている。

女 石が崩れる。夜がくる。暗くなると石を積む手元が見えなくなる。そこで私は石を捜すことにした。無限に石が転がっている河原なのだが、本当に石を積み上げるためには、よりよい石を捜す事が必要だ。暗い中で石を捜すのは大変な作業だ。

女 まず、石というものについて、考えなければならない。まず一概に石といっても、材質・形状・質量様々だ。ここにある石は、河原と言うことから、みな、川に流されてやってきたものなのだろう。丸くなっているものが多い。また、材質は、ひどくもろい。少し落としただけで、ぱっくりと割れてしまう。これが、また、石を積む作業を困難にしている。

女 積み上げるために石選び。ここから、もう、積むという行為は始まっていると言っていいと思う。まず、石の特性を考慮しつつ、適材適所を考える。まず、土台。ベースの部分には、なるべく大きく、平たい者がいい。そして、滑りにくい材質がもっともいい。そして、中程には、隙間などの微調整が必要になってくる。このときのために、小さなものから、大きなモノ、そして、三角形に近いモノも必要になってくる。そして、上部になると、これは、その時々なのだが、高さを求めるのならば、なるべく細く高いモノを選ぶ。安定性を求めるのならば、重たく大きいモノがいい。

女 古来、石を積むという行為は、石垣の文化に求められる技術と同じだと考えられる。石垣も、石を組み合わせてつくったものだ。けども、その強度は、建築物として、抜群の強度を誇って、何百年たった現在でも、その姿を残している。つまり、原始的である石を積むという行為が、木や、鉄なんかといった技術や、文明、科学の力よりも、耐久性などの一面においては、遙かに強いのだ。

女 朝、石を選び終わると、まず、石を組んでいく。まずは土台作り。これがうまくいくか行かないかで、これからの成功失敗がきまるといっていいので、慎重に積んでいく。しかしながら、時間は決まっている。日の出ている時間は季節によって変わるが、だいたい十二時間ほど、その間に、石を積まなければならない。なので、ゆっくりもしていられない。土台、中程、仕上げ、この時間配分も重要な要素となってくる。

女 土台が終わると、今度は、中程の一番難しい部分にはいっていく。ここの組み方一つで、強度が断然かわっていくのだ。ここは、経験と知識がものをいってくる。まず、土台から、一番安定している石を選んでいく。そして、それを積み上げていき、隙間を小さな石で埋めていく。その時、かならず注意しなければならないのは、力の分散だ。かならず、上から、横からかかる力を、次の石、下の石に分散していく積み方をしなければならない。その簡単な方法は、三角形を見つけていくことだ。上に積む石が、かならず、三点で、ほかの石に接するように積んでいく。これだけで、かなり力をほかの石に分散することが出来るようになる。しかしながら、これが難しく。適当に積んでいくと、そう簡単に三角形になっていかない。パズルではないので、うまくいかないときももちろんあるが、そこで諦めずに、大きな修正が無理ならば、小さな修正を重ねて、強度を強くしてく。

女 さて、正午を過ぎ、午後になっていく。夏は暑く、冬は寒い。徐々に日が傾いていく。その中で、石は徐々に高く上っていく。しかし、時間が迫ってくるので、焦っていってしまう。午後の時間は、技術よりも根性論だ。石を積み上げる疲労感と、集中力の維持が、一番難しい。ここで気を抜くと、やってきたことがすべて無駄になってしまう。なるべく手早く、克つ丁寧に作業を進めていく。しかし、時間を考えながら。やがて、あの鬼がやってくる時間がせまってくる。最後の仕上げの時間を間がなければならない。最終の形をいかに仕上げるかによって、打撃を受けたときの衝撃をいかに和らげるかが変わってくる。
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