それはアクマで
それはアクマで

作・江出秋楓


登場人物

・樋頼美代(ひよりみよ)……引きこもり。

・悪魔(あくま)……美代に送られた「呪いの手紙」の送り主。

・伊藤紗智(いとうさち)……一見ぽやっとした少女。中学三年のときに美代と一緒のクラスだった。

・川本(かわもと)……美代をいじめていた少年。




中央に美代(上下ジャージ)が立っている。その足元には一枚の手紙。

美代「樋頼美代、一八歳。普通なら大学に通うなり働くなりしている年齢だけれど、いまの私はそのどれもしていない。もっと言うなら、「何も」していない。つまり……紛うこと無き引きこもりだ」

美代「小中高と順調に育っていき、強いて問題があったとすれば人間関係だが、それも全てリセットしようと、地元から遠く離れた第一志望の大学に難なく合格した私。でも大学に入って独り暮らしを始めたばかり、この大事な時期に、なぜだか「引きこもり」なんてことをしているのだけれど、実は今回、そんなことはどうでもいい。いや、どうでもよくはないのだけれど、些細なことだ。問題は……」

美代、足元の手紙を拾い上げる。

美代「『これは呪いの手紙です。二日以内に同じ手紙を友達一人に送らなければ、あなたは死にます』
そう、一時期流行った、不幸の手紙、というやつだろう。さて本来ならばこんなものが何だ、で済ますことができたのだけれど、そうは問屋が卸さなかった」

悪魔、登場。

美代「この全身真っ黒いスーツの男が、鍵、チェーンとでしっかりロックされていた私の部屋に突如現れこう言ったのだ」

悪魔「どうも、私は悪魔です。そちらにはもうお手紙が届いているのではないかと……ああ、既にご覧になられていたのですね。それなら話が早い。その手紙に書いてある通り、二日以内にあなたのご友人に同じ手紙を送らなければ、あなたは死にます」
美代「さて、ここで問題です。大学に受かり地元から遠く離れて一人暮らし。でも大学には行かずに下宿先のアパートで引きこもっている十八歳の私に果たして友達と呼べる人間はいるのでしょうか?」

悪魔「つまり、あなたは友達がいない引きこもりのニートでぼっちであると」
美代「(手紙を破り捨てて)うるさーい!引きこもりで何が悪いニートで何が悪いぼっちで何が悪い!!」
悪魔「ぼっちはともかく引きこもりもニートも十分悪いことでしょう」
美代「そんな正論は聞いてない!そもそもあんた悪魔でしょう?悪魔が正論を言うのってどうなの」
悪魔「悪魔だからこそ正論を言うのですよ」
美代「はぁ?」
悪魔「落ち込んでいるところに正論で追い詰め、ときにとどめを刺して、人々を地獄の底へと突き落とすのです」
美代「この鬼!悪魔!」
悪魔「悪魔ですが」
美代「……はっ、そんなことはどうでもいいんだった。いま問題なのは」
悪魔「友達がいないこと、ですね」
美代「そんなはっきり言うなぁ!」
悪魔「(囁き声で)友達が、いないことですね」
美代「小声でも変わらないから!」
悪魔「はぁ、なんと我儘な」
美代「そもそも、こんな手紙送りつけてきたあんたが悪いんでしょうが!」
悪魔「はて、何のことやら」
美代「とぼけるな!そもそもなんで私なのよ」
悪魔「それは……」
美代「それは?」
悪魔「あなたがそう望んだからでしょう」
美代「えっ」
悪魔「まぁ、知りませんけど」
美代「ふざけるな!」
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