おぼろげな夕陽
洋介、洋介じゃねえか。
何してんだ、  公園のベンチに独りぽつんと座ったりして
寂しいじゃネェか。友達とあそばないのか。
何が、「そんな気分のときもある」だ。
ガキのクセに偉そうなこと言いやがって。

お父さんとキャッチボールでもしないか。あ、そうか、ボールがない
な。 仕方ねぇ。
 まあ、確かに、「そんな気分のときもある」わな。
 俺にも覚えがある。

 洋介、お前、いくつになった。
 10歳、そうか、10歳か。 息子の歳忘れるようになっちゃ、
だめだな。俺も。
 あのな、お前もそろそろモノのわかる歳になってきたし、お父さん
、今のうちに、お前に言っておかなきゃならないことがあるんだ。

 お前もうすうす気づいちゃいると思うんだが、お父さん、最近、物
忘れがひどくなってな、ずっと昔のことはp覚えちゃいるんだが、最近
に覚えたことから順番に忘れて行っちまう。
 あんまり物忘れがひどいもんだから、この間病院にいってな。
 そしたら、なんとか、って病気って言われたんだが、なんだったか
なあ。  忘れた。
 お前に教えてもらった、あの、女の子がたくさんいてセーラー服と
か着ておどってるあの集団、なんだ、あれ、AKBか、AKB48な。
 顔と名前と全部教えてもらったけど、な、独りも覚えちゃいない。
 なんとかいうのが居たな、あの大島、大島渚じゃねぇや、大島優子
か。 あと、前田 美波里じゃなくて、 前田敦子か。
 だめだ、全然覚えちゃ居ない。
 戦隊モノもいろいろ教えてもらったけど、昔のヤツしか覚えてねぇ。
ゴリンジューじゃねぇや、ゴレンジャーな、それしかわからない。

 とにかくな、直るかどうかわからないんだ。 どんどんひどくなる
かもしれない。  お前や、お母さんのこともな、忘れてしまうかも
知れないんだ。もし、そうなったら、お前たちも、俺の事を忘れてく
れたらいい。  独りで朽ち果てていくよ。申し訳なくってな。

 なにしろ、俺はお前に、「ひとに迷惑をかけるな」て、ずっと、言
ってきた。その俺が、お前や、おかあさんにとんでもなく迷惑をかけ
ちまう。 悔しくてな。情けなくてな。 
 でも、まあ、迷惑を掛けるからといって、死ぬわけにもいかないん
だ。 お前もおぼえとけよ。 人に迷惑かけるからといって、死んだ
らいかん。 謝るしかない。どうしょうもないんだから。
「迷惑かけて、ありがとう」  てな。

 もっと、お前にはいろんなことを教えてやりたかった。
 学校の勉強でもなんでも、でも、もう、無理かもしれない。
 野球ならちょっとくらい教えられるかもしれないが、お前は、サッ
カーだもんな。どうも、足を使うのは苦手でな。 走るのも遅かった
し。 手は早かったんだが。
 もう少し、大人になってたらなぁ、、 あんなことも、こんなこと
も教えてやれたんだがなぁ。10才じゃあ、なあ、ちょっと早いよなぁ

 あ、そうだ。お前をな、男と見込んで、ひとつ頼みがあるんだ。
 俺の部屋に、パソコンがあるだろ。おれのノートパソコン。
 あれな、電源入れると、なんか、言葉入れないと、立ち上がらない
じゃないか。 あれ、なんつーんだっけ。  
 あ、そだそだ、パスワード。 パスワードて言葉が出てこないのに
パスワードがわかるわけがないじゃないか。
 でな、お前がもっと勉強してな、パソコンわかるようになって、パ
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