ある雨の夜の物語
(オープニング)
車の急ブレーキの音、救急車の音
ライトイン
中央下手寄りにカラオケボックスのカウンター。
ブルーライト、ぼろぼろの布がかかっている。
舞台中央ベンチにひとりの老人が横たわる。ゆっくりと、老人にトップライトが当たる。
傍らになつみ、オレンジトップライトがかかる
なつみ、たたずむ姿が浮かび上がる。
老人「なつみちゃん、君のおかげで、素晴らしい人生を送ることが出来た。私はしあわせだったよ。ありがとう」
・・・雨の音が聞こえてくる。
時計の音、カチカチカチ・・・・ボーン
トップライトがフェードアウト
○ある雨の日の夜
舞台下手から声。それに伴い、老人となつみが上手に消える。
男の声「あんた、才能ないんやから、このへんであきらめなさい。雨も降ってる、早まったことしたらあかんで。さ、傘もって・・・」
下手にスポットライト。
同時に、下手から、這うように広之が、現れる。、下手陰からビニール傘が投げ入れられる。
投げられた傘を取り上げて立ち上がる広之。
広之「・・、やっぱり才能なかったか。友達も、家族も、金も、何もかも犠牲にしてきたのに。歌えないんやったら、もう自分の生きる意味もないな・・・・・」
傘を差し、空を見上げ、舞台中央へ。
ひざを崩し、座り込む。
全ライト、フェードイン。
シェルブールの雨傘風のオープニング
上手にベンチとバス停
中央にカラオケ店の軒先。
くすんでいたカウンターが一気に鮮やかな色になり、壁の飾りも点灯する。「オペラ座の怪人」オープニング風
カラオケ店の受付も見えている。
カウンター上を掃除をしたりしている、千鶴と准一。
雨の音、とおりを横切るカラフルな傘を来た人、広之の前を上手より下手に舞台を抜ける。
雨の音、下手より、同じくカラフルな傘をきた人二人、舞台を横切る上手に抜ける。
ベンチにデイライト
カラオケボックスにブルーライト
上手からなつみが駆け足で入ってくる。
友達との待ち合わせに傘を忘れて、バス停の軒下に雨宿りする。
なつみ「こまったなぁ、時間に遅れないでって言われてるのに。コンビにもないし・・・」
広之が、立ち上がり、なつみのそばを通り過ぎようとする。
困っているなつみをちらと見て、いったんは通り過ぎるが、突然、かさと広之はひとり芝居を始める
広之「おい・・これ、どないしたんや?え?このかさ、彼女に貸してやれって?・・・そんな、おまえ、おれはどうするんや?・・・・え?お前と、あの子と、どっちにさしてもらったら、この俺が、うれしいか、考えてみたらわかるやろ?ってか?おまえに、もう傘はいらんやろ・・・これから人生終わりにしようと思ってるくせに・・・あのなぁ・・・・・ええい、しゃあないな、言うとおりやな。俺に、もう傘も必要ない・・もう」
その姿を、見つめるなつみ。
広之は、ぶつぶつとかさと会話しながら、すぐ引返してきて、彼女に傘を与える
広之「よ、よければ、どうぞ。もうわたしには必要ないようですから。」
一瞬、かたまったしまうなつみだが、傘を受け取る。
なつみ「あのう・・あ・・ありがとうございます。あの・・・・(声にならない声:きれいな声ですね、大丈夫、私の分まで生きて、歌ってください)」
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