時間刑事
○オープニング
舞台中央に一人の男。
背後からライトが当たり逆光
男「1958年、ドイツの片田舎。ひとりの老婆が、自宅に帰ってみると、部屋の真ん中に男が倒れています。驚いた老婆は、あわてて家を飛び出し、警察に連絡するために近所へ電話を借りに行きます。やってきた警官と部屋に入った老婆、ところが、そこには何もない。警官が部屋の中を調べ、壁にかかっている一枚の写真を見つけます。その写真を見た老婆は、この男だと警官に証言しますが、その写真の男は、15年前、第二次大戦で戦死した彼女の愛する夫でした。死の直前、妻に会いたいという思いが、一瞬の時間旅行を実現させたのでしょうか。消えた死体は未だに見つかっていません。」
老婆が死体を発見し、警察に通報、警官がやってくる場面をナレーションの背後で演じる。
○第一景ことのはじまり
明かりがつくと、舞台中央に死体が横たわる。傍らに呆然と立つ一人の女ポッキー
チャイムの音
ハッとしてポッキーが玄関口へ下手行く
ポッキー「そうそう、今日は七時にトッポたちが来るんだった。五年ぶりだものね。なつかしいな。」
下手からトッポが入ってくる
トッポ「卒業以来だね。元気にしてた?」
ポッキー「本当にね。トッポ今看護師してるんだって?」
トッポ「そう」
ポッキー「私なんか、未だにフリーターよ」
トッポ「いいじゃないの、いまどきの生き方って感じで。」
と、トッポは部屋の中央の死体を発見する。
トッポ「?・・・・」
固まるトッポを無視して、話し続けるポッキー
ポッキー「ごめんね、何にもない部屋だけど」
トッポ「??・あ・・・あ・・るんですが」
ポッキー「?どうしたの?」
トッポ「誰か、寝てるんですが」
ポッキー「ぁ・・・これ?」
トッポ「うん」
ポッキー「さっき、家に帰ってきたら、あったのよ」
トッポ「誰?・・・というか・・どうして動かないの?」
ポッキー「さぁ」
死体に近づくトッポ
トッポ「まさか・・・死んでないよね。」
ポッキー「死んでるみたいだね」
トッポ「??・・・・死んでる?」
ポッキー「何か飲む?」
トッポ「いや・・それより」
ポッキー「グリコも来るから。」
トッポ、突然あわてはじめる。
トッポ「わたし、ちょっと用事思い出した」
ポッキー「え?今来たばかりじゃない。」
トッポ「うん、そうだけど、」
トッポ、じりじりと玄関下手のほうに向かう。
ポッキー「トッポ、ピザ大好きだったよね。ドミソピザのチーズリング頼んでるから、みんなで今夜は飲み明かそうね」
トッポ「でも、やっぱり」
トッポ、さらに下手に離れる。
そこへ、チャイムの音
ポッキー「ほら、もうきたよ、グリコ。はいはぁい」
ポッキー、元気よく玄関口へ。
グリコ、ポッキー二人が入ってくる。
死体を凝視したままのトッポ。
グリコ「こんばんは。」
ポッキー「いらっしゃい。グリコ、新婚生活どうよ。」
グリコ「はい、なんといいますか。男と女が婚姻届という一枚で夫婦という共同体になるということは、まったく、合理的かつ理想的な姿のようで、それによって、お互いの性欲も公然と満たせる環境が作られたという、まさしく、人類が考え出した究極の種の保存形態であると実感しているしだいです」
入ってきたグリコ、死体を凝視するトッポの先にある死体を見つける。
グリコ「お久しぶりです。トッポさん」
声をかけられても、動かないトッポ。
グリコ「あのう、トッポさんの視線の先にある物体は?」
ポッキー「ああ、あれ、死体みたいだね。さっき帰ってきたらあったんだ。気にしないで」
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