したたかな子猫たち
○プロローグ、アパートの一室
ある日の昼下がり、雨
アパートの一室
古ぼけたソファ。テーブルの上にバナナ。
舞台中央奥に部屋の奥に通ずる袖枠がある。
母文子、そそくさとテーブルを整えている。
いかにも高そうな花瓶や絵画を上手隅に移している
文子「貧乏暮らしに見せないと大変だからね。このテーブルクロスもビニールの安物に変えないとね」

文子、舞台中央奥に向かって

文子「あなたぁ!あなたも、いつものイタリア製のガウン着て出てきちゃダメよ。ジャージで良いのよ。」
大五郎の声「わ、わかってるよ・・・まったくうるさいんだから」

玄関にチャイムの音

文子「ああ、もう来ちゃったよ。えっと、これで大丈夫かしら。娘の会社の社長さんって、いったいなんだろうね突然。」

玄関に向かって

文子「はい!少しお待ちください。あなたぁ!お見えになったわよ」
大五郎の声「おお、わかった。」

文子、下手にいったん消えて、玄関に出る。
文子下手よりはいる、後から、一郎が入ってくる。

文子「どうも、こんなむさくるしいところまで。どうぞどうぞ」

一郎、文子に促されるままにリビングへ入り、椅子に座る。向かいに文子が座る。

文子「いつも恵子がお世話になっております。」
一郎「いえいえ、お母さん、そんな挨拶は結構です」
文子「恵子は仕事のほう、ちゃんとこなしておりますでしょうか?ご迷惑などかけてませんでしょうかね」
一郎「ぇ、まあ、そのことなのですがね。」
文子「あの、なにか?」
一郎「何かじゃありませんよ、お母さん。ご存知なんでしょう」
文子「何のことでしょうか」
一郎「おとぼけになってはいけません。恵子さんはどちらですか?」
文子「恵子でしたら、今日はお休みだからと出かけておりますが」
一郎「どちらですか?」
文子「さぁ・・・」
一郎「あのね、お母さん。恵子さんは会社のお金を持ち出しているんですよ」
文子「え?そんなばかな。あの子に限って。」
一郎「その、あの子に限ってですよ。」
文子「はぁ」

文子、完全にとぼけた風である。

一郎「お父さんはご在宅なんでしょうか?」
文子「すぐ降りてまいりますから。どうも、いつも起きてくるのが遅いもので。」

そこへ、中央奥袖より大五郎が入ってくる。
よれよれのジャージ姿でいかにも貧乏くさい

大五郎「ああ、お待たせしました。どうも、日曜はこんな格好で失礼します」
一郎「お父さん、恵子さんなんですがね」
大五郎「恵子がどうかしましたか?」
文子「お父さん、恵子が会社のお金を横領したって言うんですよ」
大五郎「ええ、なんだって。まさかお前。あの子に限って。」
一郎「だから何度も言いますが、そのあの子に限ってなんですよ」
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